異世界の女神

第1話 破壊神、跋扈する

 最果村での騒動から一週間が経過した。

 黒冥家からも、堂仏都香恵からも特に連絡はない。堂仏にとって、僕達は敵対したくないだけで、必要な存在というわけから向こうから連絡はしてこないだろう。どんな物騒なことを考えているのかは分からないが、なるべく穏便なやり方で世界征服を目指してほしいものである。


 さて、東京に戻ってきた僕達は、目下……

 武羅夫も含めて三人でゲームをしていた。『究極幻想』というファンタジーゲームで、女神アスタルテの助けに応じた勇者たちが神や神話上の生物とともに、異世界リーンプラムを救うというものである。有名な絵師さんが描いている綺麗な絵もあって結構人気があるらしい。

 のだけれど……。

「うーん……」

 魔央が眉をひそめている。

「このゲーム、戦略とかそういうの抜きで課金ガチャだけって感じですね」

「……否定はしない」

 そう。プレーしてみると、キャラ絵だけに金をかけたような感じがして、全体的に厚みを感じない造りになっている。

「このゲームにガチャはしたくないなぁ……」

 魔央がぼやいている。

 あ、ちなみに、資金については黒冥家はもちろん、世界救済費用の一環として国から出ている。

 だから、金に糸目をつけずにガチャをしまくって「イエーイ! 僕達、私達最強!」みたいなことはできる。

 ただ、魔央は意外とゲームには硬派で、課金ガチャキャラしかいないと絶対に勝てないみたいなノリには嫌悪感を示す。

 だから、このゲームとは相性が良くなさそうである。そういうことならよくあるのだけれど、更に気になることとしてこのゲームはちょっと課金煽りが強い。少し進むごとに『こいつがいれば強いよ!』みたいな形でガチャのページに飛ばそうとする。

 魔央はその度にムッとした感じになっている。このままイライラさせるのも良くないし、そろそろやめた方がいいだろうかと思いつつ、決め手がないので付き合うこと五分。

 遂に魔央はあのセリフを口にしてしまった。


「このゲームはダメですね。なくていいです。他やりましょう」


 その瞬間、画面は真っ黒になり、ザーと白い波線が流れるようになった。現代人は知らないだろうけれど、昭和とか平成初期だと深夜、番組のない時にはこんな感じだったらしい。

 続いて、おなじみの文字を見ることになった。


『異世界リーンプラムを救いますか?』

『▶はい いいえ』


 そう。魔央は全ての世界を滅ぼす破壊神から進化して、異世界については異世界だけ独立して破壊することができるようになったのだ。

 気に入らない世界はそれだけでぶっ壊す。

 あまりに理不尽だが、それが破壊神の流儀である。


 ……。

 残念ながら、貴重なストックを使うわけにはいかないのは、以前宇宙帝国を見捨てた時と同じ状況だ。

 だから、ここは『いいえ』を選ぶしかない。

 引き留めるメッセージが出ることも既に経験済なので怖くない。

 哀れ、異世界リーンプラムは滅びることになった。


 10分後、ツェッターで『究極幻想』のアカウントを見てみると。

『現在、謎の障害が発生して緊急メンテナンスをしています。復旧までの見込は立っていません』という告知がなされていた。ユーザーからの怒りの反応もついてきている。

「……」

 魔央と武羅夫は何事もなかったかのように別のゲームを始めている。

「やはりスポーツ系はネタが分かるから安定しているねぇ」

 武羅夫がつぶやいている。

 確かにそうなんだけど、『メジャーリーグスピリッツ』なんかをやりだすと、川神先輩がガチで絡んでくるからなぁ。できれば、『ウマ嬢・ラブリー凱旋門』あたりにしてほしいものだ。


 そんなこんなで時間が流れ、夕食の時間の頃再度ツェッターを見てみると。

『本日14時過ぎに致命的なエラーが発見され、改善のために社員総出で鋭意メンテナンスをしていましたが、エラーがあまりにも酷くて修繕の見込が立たず、サービス提供を終了することとなりました』

 という発表がなされていた。

 当たり前だけれど、ユーザーの怒りは先ほどの比ではない。『売上悪くなかったはずなのに何故諦めるんだ?』、『計画的な詐欺ゲームだったんじゃないのか』、『これは間違いなく訴訟沙汰だ』というのはいい方で、昨今話題の誹謗中傷も飛び交っている。

 主犯格としては非常に肩身が狭い。

 ただ、調べても分かることはないだろう。

 ヂィズニーランドの時も、結局映像を含めて全て原因不能のまま謎の扱いで処理されてしまったらしいし。


 まあ、宇宙帝国と比べて、異世界リーンプラムには実在の人間が住んでいたわけではない。

 キャラ目当てか攻略目当てか別にして課金ガチャに真剣になっていた人には申し訳ないけれど、正直、別にいいんじゃない? なくなっても、くらいの気持ちもある。


 この時はそう思っていたのだけれど……

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