第9話 協調成立

『ボクは簡単に世界征服できると思うけど、そこからすると君達は厄介なんだ』

 堂仏が言う。

「……魔央のことか?」

 確かに堂仏が本気になれば世界征服は不可能ではなさそうに思えた。

 ただ、世界を征服しても、魔央が簡単に滅ぼしてしまう可能性がある。それは避けたいと思うはずだ。

『ご名答。正直、村の古文書を調べて、君達のことを見つけた時にはびっくりしたよ』

「……幽閉されていたのに古文書を見ることはできたのか?」

 セキュリティがなっていないような気がする。まあ、最果村は昔の村だから、防犯意識みたいなものは非常に弱いのだろうけれど。

『地下牢に置いてあったよ。そこにあるでしょ?』

 本当だ。しかし、文字が謎すぎて全く分からない。

『えっ、解読できないの?』

「これ、二年くらいかかるでしょ」

『おかしいな。フィクションだと、誰かが気づいたことは万人の共通理解になるじゃない? バッファローマンしかり、金田一少年しかり』

「いや、そんな便利設定ないから」

 確かに、キンニク大王達が必死こいて解読した預言書をバトル中にチラッと見ただけで見抜いてしまったバッファローマンとか、金田一少年が色々考えて気づいた犯人のミスをこれまた一目で見抜いて口封じに殺された被害者がいる。

 一度解かれた謎に対するリスペクトは塵よりも軽いのがフィクション世界だ。

 もちろん、バッファローマンやら被害者がその場でウンウン考え出すと話が進まないから仕方ないんだけど。


 ともあれ、堂仏は僕達のことを知っているというわけだ。

『だから、君達とは仲良くしておきたいんだよね』

「君の理屈は分かったが、僕が君と協力して得られるメリットは何だ?」

『来る途中に聞いたんだけど、君達、あまりうまく行っていないんだって?』

「うっ! うまく行っていないというのは語弊があるけれど、一緒に生活している以上から中々進めていないのは事実だ」

 というか、こいつ、何で僕達のことを知っているんだ?

 もしかして、鎌をかけられたのだろうか?

『ああ、それは上で黒冥家の連中が話していたからね。好感度があまり上がっていないとかどうとか』

 最果村の連中、本当に役に立たないな。

「それが事実だとして、どうすると言うんだ?」

『さっきも言ったけれど、さすがに世界を破壊されるとまずいからね。ボクと君達の存在はギブアンドテイクの関係にある。で、提案だけれど、動物の中には特殊な臭いを出すものもいるよね。そういう中には人間にも通じるものがあるかもしれない。それを見つけ出せば君達は仲良くできる。ボクがそれに協力するというのはどう?』

「む、むむぅ……」

 中々魅力的な提案のようには思える。

『あと、ボクを見逃せば、最果村には何もしないと約束しよう』

「何をするつもりだったんだ?」

 付近のクマを集合させて、一斉に襲うつもりなんだろうか?

『ビーバーを集めて、川の上流にダムを作ってせき止めて、一気に水攻めでもしようかなと思っていたんだけど』

 あかん、これはガチなやつや。

 最果村の連中は正直困った面々が多いけれど、さすがに水攻めで水没してしまうのは忍びない。

「分かった。協力しよう」

『よし、同盟成立だ』

 と、下にいたネズミ達が何か書きだした。

『近道があるでチュウ』、『チュウいてくるでチュウ』、『それでもドラえもんを食べたい』

 ネズミ達が机の下へと入っていく。確かに更に降りていく階段があるようだ。そこに入ると、うわぁ、あるわ、あるわ、モグラが掘ったらしい道でボコボコになっている。

 ネズミはその中の道を入っていく。少し進むと一気に急こう配になっていて、登るのが中々辛いが、歩いていくと……

 二、三分で庭の片隅に出てきた。黒冥家も、地下にこれだけモグラの迷宮があるとは思っていないんだろうなぁ。

 と、僕の携帯に見知らぬ番号からの着信があった。恐らく堂仏からのものだろうと思って出る。

『やあ、無事に出られたみたいだね』

「君はどこにいるんだ?」

『うーん、それはちょっと言えないなぁ。疑っているわけじゃないけど、多分、知らない方が君達のためだと思うしね』

「ふむ……」

 確かに、色々追及を受けるかもしれないしなぁ。


 ま、とりあえず、捕まえるのは無理そうだということで僕はおばば様に報告に戻る。おばば様は庭を眺められる廊下に正座していた。僕が戻ってくるとチラりと視線を向け、「失敗したようじゃな」と言ってくる。

「いや、でも、あれは無理ですよ。動物を使いこなすと世界征服だって真面目にできそうですし、いくら黒冥家の力でも無理ですよ」

「馬鹿者が」

 一喝されてしまった。

「動物ごときで何をぬかしておるか。この黒冥家がどのような家か分かって言っておるのか?」

「呪術の名家ですよね?」

 むっ、もしかして、本気になれば呪いで一撃で沈められたりするのだろうか?

「そうじゃ。あの小娘は動物なんぞでいい気になっているが、我々は式神を操ることもできるのだ」

 おお! 式神!

 それは凄そうだ。

 だけど、ラブコメからますます離れてバトル系現代ファンタジーになってしまわないか、一抹の不安があるのだけれど……。

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