第8話 目指せ、世界征服?

 何だかよく分からないまま、僕はなし崩し的に堂仏都香恵どうぶつ つかえを追うことになってしまった。

 しかし、僕はすぐに知ることになる。彼女がいかに恐ろしい存在であるかということを。

 すぐに前の方から「うわー」とか「ぎゃー」という悲鳴が聞こえてきた。警報音を聞いて僕より先に飛び込んでいた者達らしい。

 一体何が起きているのだろうかと思った僕の足をつかむものがあった。

 目を落とすと、ネズミが数匹、僕のズボンを掴んでいる。その周りには『これ以上行かせないでチュウ』、『追うことは認めないでチュウ』、『ドラえもんを食わせろ』というプラカードを持った別のネズミの部隊がいた。

 うーむ、最後の一枚を見る限り、この面々はネズミの中でも相当ヤバイ連中に属しているようだ。

 しかし、これだけの数を集めるとは。

 ヒグマをまとめて空港に集めたわけだから、ネズミの集団をまとめるのもどうということはないわけか。

 堂仏都香恵、恐るべし。


 試しに一歩前進しようとしたら、ネズミの中から石を投げつけてくるものがいた。まるで何かの抗議行動のようで、非常にやりづらい。

 と、地面の土に何か書き始めた。『おまえごときが追いつけるはずないでチュウ』、『堂仏さんにはモグラ軍団もチュウいてるでチュウ。どんどん掘り進んで現在逃げている途チュウでチュウ』、『ドラえもんの耳はうまいでチュウ』。

 チュウチュウ分かりづらいけれど、ネズミ軍団がついているならモグラ軍団がついていても不思議はない。で、モグラ軍団が勝手に地下道を広げているというわけか。

 おばば様は『地下道が広がっている』と言っていたけれど、その原因は何の対策もせずに堂仏都香恵を地下に幽閉していたことにもあるということか。

 最果村の人達、ダメじゃん。


 しかし、堂仏都香恵がモグラを使って地下から簡単に掘り進めるとなると、何でそれで逃げずにいたのだ?

 あのラオウの銅像のボタン、そんなに強力な幽閉装置だったのか?

 僕はひとまずネズミに対して堂仏を追わないので、地下牢に案内してほしい旨を頼むことにした。と言っても、言葉は通用しないから地面に書くしかないわけだけど。

『おまえは物わかりがいいでチュウ』、『だから連れていってやるでチュウ』、『ついでにドラミちゃんの耳も食べたいでチュウ』

 何故だろう。めっちゃ馬鹿にされているような気がする。あと、最後のは絶対にダメだから。

 首を傾げつチュウ、いや、もとい首を傾げつつ僕はネズミ達の後を追った。


 地下牢となっていた部分は相当深いようで、しばらく進むと石造りの階段となった。

 なるほど、石造りの階段や部屋の中にいたとなると、さすがのモグラでもどうすることもできなかったということか。

 部屋まで案内される。中にはテレビやら端末やらはある。今時、有線というのも凄いけれどネット回線も通じていたらしい。どうやら、そこそこの待遇ではあったようだ。

 ネズミ達が机の上の古い受話器を指さしている。電話番号が一つだけ登録されていたので、かけてみると。

『やあ、たどり着いたんだね。時方悠』

「……堂仏都香恵か?」

『あの石造りの部屋は苦労してね。逃げる方法がなかったわけじゃないんだよ? モグラ軍団に下を完全に空洞にさせれば、崩れるからね。ただ、それだとボクも多少ケガをするかもしれないから』

 堂仏都香恵はボクっ娘らしい。

『だから、安全に逃げるには外部者を利用するしかないと思っていたところに君が来てくれたんだ。感謝しているよ』

「それを言いたくて、僕を電話機まで案内させたのかな?」

『それが一つ。あと、もう一つある。ねえ、時方悠、ボクに協力してよ』

「協力?」

『憎らしいことに二年くらい幽閉されていたけれど、その間、色々と調査はできたからね。おかげでボクは、自分に世界を征服できる力があることに気づいたんだ』

「世界征服?」

 まさか他人から「世界征服」なんて言葉を聞くことになるとは思いもしなかった。しかし、確かに堂仏都香恵の能力は厄介だ。

『そうだよ。どんな都会だって下は土でしょ? モグラに下を掘らせれば、いつかは破壊することができる。あとはコウモリにちょっと出張してもらえば未知の病気をばらまくこともできるからね』

 これはまずい。どうやら二年間幽閉された恨みで、ヒグマの軍団を自衛隊基地に殴りこませるよりも巧妙なことを考えるようになっている。

 というか、地下牢に閉じ込めるなら、再犯しないように教育とかしないとダメでしょ、おばばさん……

「でも、食べ物とかはどうするんだ? 野菜や果物を丸かじりか?」

『カラスを舐めたらいけないよ。彼らは簡単に持ってこられるからね』

 確かにカラスって袋に入ったものを器用に引っかけて飛んだりしている。菓子パンやら総菜などは余裕ということか。

 しかも、カラスの集団を操れるのなら、空を移動することだってできるのか。

 これはまずい。マジで最強なのではないか? こいつは。

『時方悠、君が協力してくれればいいだけなんだよ。もちろん、見返りは出すよ』

 見返り?

「僕をナンバーツーにするとかそういう話かい?」

『それを望むならそれでもいい。ただ、君にとってもプラスになる話なんだ』

 僕にとってもプラスになる話?

 一体、何なんだろう。想像もつかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る