第6話 神滅ぼしの酒

 僕の遺伝学的な父親は、川神威助……。

 川神先輩は「自分は聖女の家系だ」と言っていた。僕が魔央に対応できているのは、そうした家の力が影響しているということだろうか?

「多少影響があるが、おぬしの力について色々調べたところ、どうやらお主は魔央と対極的な能力を持っているらしいことが分かった。川神威助は何でもありないい加減な人間であったが、子供の中には『悪・即・斬』の傾向をもつ者が強い。父親の乱痴気な生き方に本能的に反発しているのだろう」

「悪・即・斬ということは、僕は正義漢ということですか?」

「正義漢ではある。ただ、おぬし達の場合、それが行き過ぎている傾向がある。例えば、貧乏な親が子供のために食べ物を盗んだとする。おぬしはそうした親を悪として即火あぶりにするようなタイプだ」

 えぇっ? そんなに殺伐としているの? 僕の本質って。

「そうだ。白すぎるのだ。おぬしは異物と判断すれば何でも攻撃する狂った白血球のようなものだ。世界にいて困るわけではないが、多すぎると白血病となる」

 それはやばいな。物騒すぎる。

 でも、僕、そこまで物騒だったことはないはずなのだけれど。

「それもあって、封印の儀が必要だったのだ」

 あ、僕の変な能力も封印したということ?

「最悪の場合、お主が世界を白く塗りつぶしてしまう可能性もある。お主の世界ではあらゆる悪が許されん。相手が悪感情を抱く言葉遣いは許されんから私語は一切ない挨拶のみの世界となり、一部のヲタクや中年などは存在自体が嫌悪されるから35歳以上の中年世代になると毎年適性試験を受けて、落第すると処刑される世界となる」

 それは酷すぎる……。

「そうした能力を封じるとともに、魔央の瘴気を中和する能力を多少は残すことが必要だったのだ」

「でも、そんな話は最初、全然聞かなかったのですけれど?」

 あくまで魔央の問題だけを聞かされていた。両親にしても、こんなどうしようもない存在だと知っていたら、さっさと縁を切っていたのに。

「最初にまとめて説明するには多すぎる。魔央のことすら理解できなかったではないか?」

「あ、まぁ……」

 確かに、「信じられない」と言って、一回滅ぼしてもらったことはあったか。あの時に、「おまえは狂った白血球だ」なんて言われていたら、確かに怒って何も取り合わなかったかもしれないなぁ。


 鹿威しがガタンと鳴った。外からはセミの鳴き声も聞こえてくる。

 中々衝撃的な話ではあったけれど、それは今に始まったことではないので、何となく素直に受け入れられる。僕はこの酷い世界に慣れてしまったらしい。

「さて、現状の問題点を見てみよう。おぬしの白過ぎる精神は、魔央の破壊し過ぎる精神と反発するところがある。それをうまく抑えないと、最悪、世界の最終決戦を始めてしまう可能性すらあるわけだ」

 な、何だと……?

「事実、おぬしの精神は拒否反応を起こす寸前にあり、ここしばらくは好感度も上がっていないであろう?」

 おっ、僕の好感度が上がらなかった原因はそれ?

 つまり、精神の奥底が魔央の破壊神気質に拒絶反応を起こしているということ?

「そういうこととなる」

「ただ、それだと世界を救える回数が増えませんが、どうすれば?」

「そうした時にはこれを飲めばいい」

 ドンと出されたのは小さい瓶。そこには『鬼殺しを超えた!』というキャッチフレーズと『鬼滅ぼし』というブランド名のシールが貼られていた。

 いいのか、このブランド名……。

「……間違えた、こっちじゃ」

 出し直したものには『神滅ぼし』とある。

「人の中には、たまに神の資質が強すぎる者がいてのう、人間世界では対応できないことがままある。そういう時に、この焼酎を飲めば、神の気質を抑えて人間らしく生きることができるのだ」

「焼酎ですか……。僕、一応未成年なんですけど」

 大人が堂々と勧めるのはいかがなものだろう?

「心配するな。医薬部外品だと思えばいい」

「そ、そうですか」

 水とグラスが出されたので、僕は試しにちょっとだけ注いで飲んでみた。味は苦い。何で作られているのだろう、麦かな?

 と、一口飲んだ途端、聞き覚えのある効果音がした。


『好感度3200をクリアしましたので、世界を救える回数が一回増えました。次回世界を救う回数が増えるにはあと1550の好感度が必要です』


 おおっ!?

 世界を救える回数が増えた。

 というより、次までもそれほど遠くないよ?

 つまり、僕の中の正義神気質?みたいなものがレベルアップを含めた魔央に関する事項を止めていたということなのか。奥が深いというか、何というか……


 周囲の人間には何が起きたかは分からないはずだけれど、僕の表情でいいことが起こったことは分かったみたいだ。

「……うまくいったようだな?」

「はい。うまくいきました。この『神滅ぼし』の酒、持って帰ってもいいですよね?」

「もちろんだ。何せ在庫が幾らも余っておるからのう」

 在庫?

「世間では『神滅ぼし』よりも『神創り』の酒の方が圧倒的に売れる。神になったとしても、どんな力を使えるか分からん。ライバル神から命を狙われるかもしれぬというのにのう」

 おばば様が愚痴り始めた。

 これは聞き流す方が得だろう。

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