第5話 老婆は語る~後編~

 両親と僕の間に血のつながりがなかったとは……。

 と、驚いているけれど、おばばは関係なく話を続けている。

「正直、呪いで二人に言うことを聞かせることも可能ではあったが、『いつでも靴を舐めます』とまで言うので、生かしておいた方がいいかという話になった」

 軽率に写真撮って、「靴まで舐めます」は情けなさ過ぎるなぁ。

「ということで、お主を連れてこさせて魔央に会わせることにした。人間の子供がどのように瘴気にやられるのかという実験だったのだが」

 おばばがリモコンを押し、別の画面になった。

 おっと、映っているのは僕だぞ。

 そうだ。確かこの時、両親から「ここの家にこの鏡モチを届けに行きなさい」って渡されたんだ。そこで玄関で一人で羽根つきをしている魔央に会ったんだっけ。

 画面の僕は、玄関の前についた。玄関に入ったすぐのところで魔央が羽子板で遊んでいるのだけれど、こ、これは……

「凄いですね。魔央ちゃんの後ろに黒い大きな霧のようなものがかかっている」

「うむ。これが魔央の瘴気だ」

 いや、こんな凄いもの、僕は見た覚えがないんだけれど……

 と、あれ、僕の後ろにも何かついているような。

「悠の後ろに、白いもやが?」

 おばばが頷いた。

「うむ。この瘴気と邪気がお互いに侵食しあおうとして」

 互角だ。というか、画面の中の僕と魔央はそんなものに全く気付かず、羽子板を始めたぞ。


 映像は何とも恐ろしい光景となっていた。

 僕と魔央、二人が羽子板をしている周囲で黒い空気と白い空気が混ざり合い、暴風のように荒れまくっている。木が吹き飛び、家の一部が裂け、大地すら割れようとしている。

「魔央の力は分かるけど、僕は一体何だったんでしょう?」

「うむ。わしらもこの事態に驚愕した。魔央の前に立ち、生きていられる者は多分この少年以外にはいない。そう結論づけて、慌てて封印の印を用意してもっていかせた」

 そう言って、おばばは貴重品の入った箱を開いて、「これじゃ」と取り出す。

「……えっと、この『予約済』というのが封印の印なのですか?」

 何かマヤ文明の楔形文字みたいなハンコだった記憶なのだけれど。

「……間違えた。これは呪術用品店の印鑑だった」

「ですよね」

「そうして、今に至るということだ。15歳を超えたあたりから瘴気を無尽蔵に出すことはなくなり、18歳を超えると管理できるようになる。いざという時、有効に使用できるようになったということだ」

 なるほど。で、今の魔央は有効に使って、世界を簡単に滅ぼしている、と。

「あ、すみません。先ほどの質問には答えてもらってないのですが?」

 それは理解できたけれど、僕の能力が謎だ。一体、どういう経緯で備わったものなのだろうか?

「うむ。わしらは再度時方夫妻を問い詰めた。その結果、奴らの拾ったという橋が分かり、そこからある男の存在が浮かび上がった」

「ある男の存在って誰ですか?」

「川神威助じゃ」

「川神……!?」

 えっ、もしかして、川神って、あの川神?

「そうだ。川神聖良の父親だ」

「何ぃ!?」

 これには僕だけでなく、武羅夫も仰天している。

 この段階で先輩の父親の名前が出てくるということは、これは、僕の父親がそいつだってことを言いたいんだよな?

 ということは、僕と先輩は実は姉弟だったということ?

「川神威助はあるマンガに毒されておってな」

「あるマンガ?」

「うむ。ある大富豪がギリシアで女神アテナの生まれ変わりを拾って、それで一念発起して百人の子供を女神の護衛兵にしようとしたという漫画だ」

 はあ……?

「川神威助は『自分もいつかそういう時が来るかもしれないから、聖女用の娘以外に百人の息子を作っておこう』ということで、その、何だ、あちこちで作りまくっていたらしい」

「もしかして、その中の一人が僕ということですか?」

 おばばは頷いた。

「となると、僕には百人の異母兄弟がいるっていうことですか?」

「正確な数字までは知らん。川神威助に聞いてくれ」

 言葉もないとはこのことだ。

 いや、先輩はこのことを知っているのだろうか?

 以前、ヂィズニーランドからの帰りの時にそれらしいことはほのめかしていたから、知っていると考える方が自然なんだろうな。

 うーむ。

「でも、おばば様、悠さんの能力と百人の兄弟は関係あるのですか?」

 あ、魔央の言う通りだ。

 僕が大丈夫だったのは川神家の力があったからということなのか?

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