第4話 老婆は語る~前編~

 遂に来ました最果村。

 いや~、相変わらず、何もない。

 現代風の施設は何もなく、大正時代の村なのかというような造りの家に店が並んでいる。テレビなどで「昔懐かし昭和の駄菓子屋」なんていうコーナーを見たことがあるけれど、最果村には駄菓子屋すらない!

「……よくこんなところで生活できるよなぁ。四里泰子も僕の取材というより、こっちの村を取材したら良かったのに」

「そんなことをすると、即、リンチですよ」

 魔央がしれっと恐ろしいことを言う。

 確かに表に『日本国憲法は通じないかも』とか書かれていたからな。村の秘密を知らす者は生かしておかないのだろう。


 村を歩いていても仕方がない。目的は黒冥家だ。

 魔央に案内されて歩くこと二十分。

 広いぜ、最果村……。一軒一軒の間に農地とかあったりして、都会的感覚だと大変な距離感だ。

 そして、デカい、黒冥家。昔、羽子板をした記憶でも相当なものだったけれど、いざ実際ついてみると、熊本城を思い出すくらい広い。

 正面から入ると、入口近くに工房があって、何かを作っている。ああいうところから、四里が持っていたようなノートが生まれるのだろうか。

 更に奥に進む。いや~、ここの住民は肥満の心配はしなくて良さそうだな。階段も多いし、広いし。

「おお、天主閣のような建物だ」

 武羅夫も感嘆の声を漏らすけど、本当にそんな感じの建物だ。一体全体、どこでこの建物の維持費を賄うくらいの儲けを出しているのだろう。

「黒冥家は呪い屋本舗の経営をはじめ、ミザリー、キカザリー、イワザリーなどの店舗からも収入が上がっているらしいです」

 21世紀の現代社会でも、呪術の需要は高いということか。

 その割には悪人とか跋扈している気もするけどねぇ。

「正義感の強い一般人は黒冥家のことを知る機会がないですからね」

 なるほど。

 どちらかというと、悪人側が使うわけか。


 さて、天主閣に入り、客間で待たされる。

 苦そうな茶と、いかにもな感じの和菓子が出てきた。

「待たせたのう」

 来たよ、何でも知っていそうな80歳くらいの婆さんが!

「おばば様、お久しぶりです」

 魔央が挨拶をする。

「うむ。久しぶりじゃのう」

 と言って、チラリと僕の方を見た。

「お主が時方悠か?」

「はい。はじめまして」

 と挨拶したけれど、ひょっとしたら面識はあるのかな?

 反応を見ると、特別表情が変わるところがない。

「ふむ……。どうやら、白き血が増えてきているようだの」

 白き血?

 何だ、それは白血球のことか?

「白血球……。近いかもしれぬのう。時方のいたずらっ子どもがお主を黒冥家に連れてきて8年、わしらはおぬしのことを研究しつづけてきた」

 えぇっ、そうなの?

「ここに古いDVDがある」

 DVD? まさか最果村にそんなものがあったとは?

「土井中まで行けば普通に手に入る」

 左様ですね。

 ともあれ、おばば様と呼ばれる婆さんが用意したDVDを三人で観る。

「これが9歳の時の魔央だ」

 確かに画面には魔央らしき人物が映っている。おおまかな雰囲気は変わらないけど、着ている服は極めて和風でこの村っぽい。

 魔央が田舎のあぜ道を歩いているのだけれど、しばらくすると、画面の端の方から何か変なものが降ってくる。

「……破壊神の力を制御しきれず、漏れている破壊の瘴気が空を飛ぶ鳥や雑草などを次々と死なせておったわけだ」

 言われてみると、歩いている近くの草が枯れてしまっている。

 これは何とも恐ろしいな。

 漫画なんかで、ものすごく鍛えた者がその溢れる気で踏んでいる大地を溶かすようなシーンがあるけれど、それをナチュラルにやっているというわけか。

「呪符を貼りまくって何とか塞ぐしかなかったのだ。もし、何もない中で人間が近づいたら、その場で溶けてなくなるくらいのものだったかもしれない」

 凄いなぁ。

 でも、今の魔央は特別呪符を貼っていたりしないよね?

「左様。9年前、ある阿呆な夫婦がこの屋敷に入り、あれを撮影した」

 指さした方向には『北斗の拳』のラオウの最期と思しき昇天ポーズをしている半裸の男の銅像がある。

「あれはこの村の開祖である陰陽師の銅像なのじゃが、愚かな二人が『これラオウの最期じゃね?』とか書いて、インターネットを通じて全世界に広めようとしたのだ」

 くっ。

 馬鹿な両親と同じことを考えてしまったとは、不覚。

「我々はブログのサーバーを呪術で破壊し、二人が村から出る前に捕まえた。ああいう愚か者に限って、我々には弁護士をつける権利などがあるなどとほざく。この村には日本国憲法は通用せぬというのにのう」

 確かに、面倒くさい奴ほど自分が不利になると権利をふりかざす傾向はあるよね。

「自治会は二人を魔央の実験台にしようと決定した。そうしたら、二人は『自分達の9歳の子供を代わりに生贄にしてほしい』と言いよった」

 改めて聞いても頭に来る話だな。

「わしらは呆れ果て、『子供がかわいくないのか?』と聞いた。奴らはこう答えた。『あれはブログで幸せな家族生活をアピールするために橋の下から拾ってきた子だから死んでも構わないんです』と、な」

 えっ、何、だって……?

 橋の下から拾ってきた……?

 ということは、僕は二人の子供ではない、ということ?

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