第2話 四里の反撃
「フ、フフフフ……」
追い詰めたと思った四里泰子が、急に笑い始めた。
「さすがは諸悪の根源・時方悠というところかしら。簡単には尻尾を掴めないようね」
いつの間にか諸悪の根源にさせられている。
「ヂィズニーランドを貸し切り、チベットからコンコルドを飛ばす権力。そして、傍に江戸時代から脈々と繋がる抗議の狗・服部家がついている。私の勘に狂いはなかったわ。小諸ケーや徳島照之の話題なんてどうでもいい。ひょっとしたら政権だってどうでもいい。時方の所業を明らかにすれば、日本は変わる」
そう言われてしまうと返す言葉もない。
でも、チベットからコンコルドを飛ばしたのは僕じゃない。山田さんだから。彼女もますます謎な人になっている。
「くっ、こいつ、俺のことを?」
武羅夫がたじろいでいる。確かに、武羅夫の家系とか調べてきたのは驚きだ。
いや、驚きか?
最初は絶対秘密な話だったのに、最近では色々なメンバーが最上階にも出入りしているし、どこかから普通に漏れたような気もする。
「やはり始末するしかないか」
「おっと、これを見てもまだそんなことが言えるかしら?」
苦無を抜いた武羅夫に対して、四里は古びたノートのようなものを開いた。
「何だ、それは?」
「このノートの価格は530000です」
「な、何っ!?」
四里の宣言に武羅夫が怯んだ。
いや、戦闘力とかじゃなくて、価格だよ?
しかし、530000という数字にはそれだけで「とても敵わない」と思わせてしまう何かがある、恐るべきは国民的漫画とアニメ。
「53万円もするノートってこと?」
しかし、何故にそんな価格になるのだ? もしかして、実は外国で買ってきたもので日本円換算だと53円なんてことはないよね?
「そうよ。あんた達は知らないでしょうけれど、オカルトショップ美沙理で買ってきたもの」
またドマイナーなところを攻めてきたな。
「あ、それ……」
「知っているの、魔央?」
「はい。黒冥家が東京と大阪に出しているグッズショップの名前です。ミザリー、キカザリー、イワザリーという三つの店舗がありますね」
「とすると、あのノートは何なんだろう?」
「恐らく、名前を書くとその人が死ぬノートではないでしょうか?」
いやいやいやいや!
そういう設定丸パクリはどうかと思うな!
「あ、でも、無制限ではなかったはずですよ。確か、書いた人は体の一部を失うとかどうとか」
お、おぉぉ、黒冥家ならではの呪いグッズか。そこまで具体的な話が出てくると、四里の自信もあながち嘘ではないということだな。
しかし、そんな恐ろしいアイテムがあるのなら、木房さんの存在意義がなくなってしまわないか?
「だから、負け組教の人達は思いはともかく、呪いレベルとしては……」
そういえば、魔央、最初負け組教をディスっていたね。
いや、今もディスっているか。
四里泰子はノートを開いて、ペンを取り出した。いつでも書ける状態スタンバイということらしい。
「でも、それ、本物なんですか?」
魔央がもっともな質問をした。
「本物よ。実際に髪の毛三本で蟻が死んでいくところを確認して購入したわ」
こちら側に開いてみせる。確かに左上に『蟻のマイケル』と書かれてあって、その右側に別の誰かが書いたらしい『代償:髪の毛三本』という文字もあった。
「蟻に名前とかあるの?」
「二百回呼びかけると、名前のないものにもつけられると説明書にあるわ」
うーむ、実際に蟻に「おまえはマイケルよ。マイケル、マイケル」って二百回呼びかけていたというわけか。ものすごいシュールな光景だ。
「悠さんは蟻ではないので、髪の毛だけでは無理だと思います。体中の毛髪全部とかそういうクラスが要求されると思います」
「知っているわ。一瞬、全身脱毛がタダでできるかなと思ったけれど、髪の毛を全部失うのは抵抗があるわね」
いや、何か迷っているみたいだけれど、殺される方は毛髪全部と引き換えに殺されるなんて納得しないよ!
「だから腎臓一個にするわ」
「あ、確かに腎臓は二個ありますものね。正しい選択だと思います」
「いや、魔央、納得しないでよ」
こちらは殺されるかどうかの瀬戸際なのかもしれないのに、臓器移植の闇組織みたいな話をするのはやめてほしい。
四里が勝ち誇った笑みを浮かべた。
「時方悠。生きたまま暴いて文冬砲に載せたいのはやまやまだったけど、死んだ後にじっくりと調べてネット小説にして披露するというのもアリよね」
そう言って、ペンを取り出す。
武羅夫が叫んだ。
「ノートを書かせるな!」
「いいえ! 限界よ、書くわ!」
四里はサラッとノートに名前を書き込んだ!
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