黒冥家への帰還
第1話 最果村へ
須田院阿胤とのドタバタが起きてから一週間。
須田院は時々ご飯を食べに来る以外、問題行動は起こさなくなった。
「おまえが迂闊なことをしたら、世界が滅ぶ」
と釘をしっかり刺しておいたのが効いているのだろう、とは思う。
ただ、世界が滅びかねない状況は須田院以外にとっても同じだ。何せここしばらく、救える回数が増えない。ストックゼロのままで一週間というのは神経が磨り減ることこの上ない。
「このままだと、時方様が闇堕ちするであります」
ストレスに加えて、前回、各方面から闇の気なども貰った影響がある。自分では自覚していないのだけど僕は大分闇堕ちしてしまっているらしい。
腕を切り落とされても「ハァッ!」とか叫んだらトカゲみたいに再生されるんだろうか。
「……確かに参っているようね。冗談がつまらないうえに闇系のものになっているわ」
川神先輩から辛辣な言葉をかけられる。
「明日は首相との会食があるのだけど……」
「それはキャンセルした方がいいわね。今、時方君が首相と会っても何の得にもならないし、ひょっとしたら怒ってマイナス方向に行くかもしれないわ」
「怒らないかな?」
「怒ったとして、彼に何ができるわけ? 時方君が『首相のサポートがないので世界は滅亡寸前です』と公表したら、即、退陣なのだし」
おお、僕の方が立場が強かったのか?
「そうね……。今更という感じもあるけれど、魔央さんの件は黒冥家が主導しているはずだから、黒冥家に訪ねてみるという手もあるわね」
なるほど!
確かに、黒冥家は今回の件を主導していた存在だ。封印の刻印に関する情報その他もあるに違いない。先輩の言う通り、今まで何で気づかなかったんだろうというくらいの見落としじゃないか。
よし、この週末は最果村に戻って、黒冥家に行こう。
魔央も故郷に里帰りということであっさり承諾してくれたので、金曜日、午後の講義が終わると向かうことにする。
とはいっても、最寄りの
先輩は当然ながら野球観戦があるのでついてこない。木房さんは全日本負け組評議会の理事選挙があるらしいのでそれに参加するらしい。山田さんはチベットにいることになっているから、久しぶりに武羅夫との三人で行動ということになる。
土井中空港から最果村までの道路は思ったよりは整備されていた。世に酷道と呼ばれるような滅茶苦茶な道もあるが、普通の地方の国道である。黒冥家とかそうした家の力なのだろうか?
ともあれ、自然ばかりの道路をレンタカーで移動していると、武羅夫が「アン?」と声をあげた。
「空港から、ずっと後ろをついてきている車がいるな」
「最果村の住民かな?」
人口二千人くらいの村だから、たまに移動があっても不思議ではない。空港にしても、電車にしても土井中経由になるはずである。
「……でも、あっちもレンタカーですね。ナンバーが『わ』です」
後ろを見ている魔央の言葉。
何、それはおかしいな。
最果村の人間なら車を持っているはずだ。空港からレンタカーで来るとなると、来客ということになるが、最果村に来客なんて普通はない。
「望まれない来客の可能性があるな」
武羅夫はそういうと、窓を開いて、ポイポイと何かを投げた。
程なく、パアンという音を立てて後続車がパンクした。
「フッ、
武羅夫が勝ち誇った顔で車を路肩に止める。
「……」
みんなは絶対真似したら、ダメだからね!
「コラー! 何てことするのよ!」
後ろの車から女が出てきて文句を言っている。
あ、あの女は?
「確かヂィズニーランドで見た、
しりたいこ!
ヂィズニーランドでの記憶は先輩が奪ったはずなのに、また僕達を追跡しているというのか。
文冬砲は不倫の話だけ追っていればいいというのに!
「……ま、悠も魔央ちゃんという存在がありながら、先輩や山田狂恋や木房梨子に手を出して不倫していると言えなくもないけど、な」
「……グッ」
「恐らく、向こうの認識としては小諸ケーさんのような感じで追いかけているのだろうと思うが」
小諸ケー氏みたいな扱いは本当に嫌だよなぁ。ヂィズニーランド貸し切りとか横暴なことをやってきた現実が実際にあるから、余計に気が滅入る。
「まあ、前回同様いざという時には首相からお灸をすえてもらえばいいだろう。気にすることはないさ」
武羅夫の結論にひとまず納得して、僕達は路上で途方に暮れている四里泰子に近づいていく。
「……あんた達! 路上に撒菱なんて犯罪よ! これは言論の自由に対する直接的な弾圧だわ!」
「何とでも言えよ。俺達のことを書けると思っているのか? 前回と同じだぞ。それに、この山の中だったら、あんたを殺して山中に放置して闇の中ってことだってできる」
お、おおぅ、こちらが完全に悪役なことを言っているぞ?
一体、どうなってしまうんだ?
木房さんじゃないけど、軽犯罪とかはともかく、懲役五年を超えるようなことはしたくないんだけど……。
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