第7話 至高の黒ミサ

 むむむ、先輩が本気を出すと僕の身に良くないことが起こるというのは気になる。

 魔央との相性がいいということで、闇の一味みたいな扱いなんだろうか。

 まあ、気にしすぎていても仕方ない。

 そもそも、魔央に足つぼ、山田さんが腰に針、木房さんが肩に五寸釘というあたりで尋常な状態ではない。浄化云々の前に、この場で死んでしまうかもしれない。

「大丈夫よ。私を信用してほしいわ。針の動画も結構アップしているのよ」

「負け組教を信じてほしいであります」

「それでは、行きます!」

 魔央の合図とともに、まず足の指あたりにギギギと力が入る。

「痛ててて! ちょっと痛いよ!」

 思わず叫び声が出た。何なのこの痛さ? ペンチか何かでも使っているの?

「大丈夫ですよ。痛いくらいがちょうどいいんです」

 いるよね!? 足つぼって痛ければ痛いほどいいって考えている人。

 相手が「痛い」と音をあげなければ、自分が負けくらい思っている人とか。

 今の魔央のはそれどころじゃないよ。

 この痛さだと多少のSじゃないよ。スーパーSだよ! 本当に燃える鞭とか使いかねないよ。


「それでは時方様、覚悟……じゃなかった、準備するであります!」

「ひぇぇぇっ!」

 っと、身構えたけど、釘を刺されたような痛みはない。

「ここが痛そうでありますね」

 木房さんはハンマーで凝っていそうなところを叩いている。では、釘は何かというと。

「うひゃひゃひゃ、やめ……、くすぐったい!」

 頭をサワサワと金属感が走る。確かメタルシャワーだっけ。何とも言えない不思議な感覚が走るというやつだ。

「あまり動くと刺さるでありますよ」

 おっと、それは怖い。気を付けないと。

 木房さんは思ったほどのものではなかった。


 では、腰のあたりはというと?

「よう悠さん、このあたりはどうだい?」

 山田さんは針を刺し出すと、急に江戸っ子口調に変わってきた。

「うーん、効いている、のかな?」

 正直、針治療を受けたことがないのでよく分からない。

「この辺りはどうだい?」

「多分、効いているんじゃないかな? でも、山田さんが針ができるというのは意外だよね?」

「おや、そうかい?」

「いや、銃とか脇差とか物騒なものばかりもっていたから」

 銃の使い方も非常に手慣れたものだったから、撃ち慣れているのかと思ったけれど、こういうのを見ていると、物凄く手先が器用なのかもしれない。

「VIPが多いところに行くと、所持品検査を受けんでねぇ。こういうのが便利になってくるんだよ」

「……VIPが多いところ? 所持品検査?」

「おっと、今のは聞かなかったことにしておくれ」

「う、うん……」

 多分聞かない方がいいのだろう。僕はそう思った。


 ということで、恐れていた針と釘(金槌)は意外とソフトで、ひたすら痛いのは足つぼという状態でしばらく続く。

 その間、川神先輩はプロ野球チップスを食べながら、メジャーリーグ中継を見ていた。しかも先輩の場合、日本人メジャーリーガーなんてどうでもいい。「こいつのこの微妙な成績。来年日本で見るかもしれないわ」などと言っている。

 試合が終わり、こちらに視線を向けてきた。

「うーん、これはちょっと……」

 少し首を傾げて、ポツリとつぶやいた。いかにも思わせぶりな言い方で気になる。というより、気にさせるために言っている。

「ちょっと……、何なんですか?」

「……時方君、今、気持ちいいかしら?」

「頭はまあまあ……」

 釘が頭に触れる度にぞわぞわっとなる。

「ふむ……」

 いや、何か頷かれていると怖いんですけれど。

 何かあるならはっきり言ってくださいよ。

「うーん、端的に言うと、今、時方君は足から魔界の瘴気を受けていて、首筋から負け組の黒い思念が入っていて、腰には血塗られた何かが入ってきている状態なのね。言ってみるならば、至高の黒ミサを受けている状態とでもいうか……」

 至高の黒ミサ?

 といか、腰には血塗られた何かって、何なの? そんなにヤバイ針なの?

「これが気持ちいいと思うようになれば、多分完全に悪魔になっているんだろうけれど、頭くらいならまだ大丈夫か」

 まだ大丈夫か、じゃないでしょ! 止めてもらわないと。

「大丈夫じゃない? 女の子三人に構ってもらえているんだし、もし悪魔になっても悔いはないでしょ?」

 どういう理屈なの、それ?

 と思った時、窓がガンガンと叩かれた。

「すまん、時方悠。先ほどのアンケートにちょっと修正が……」

 須田院阿胤が入ってきたらしい。勝手に入ってくるなと思う暇もなく、この部屋にやってくる。

「正しいのはコチラ……」

 須田院と僕の目が合った。

 唇を強くかみしめ、じんわりと涙が浮かぶ様子が見える。

「貴様ぁ! IQ300の僕が夢でも見ないような羨ましい状態に置かれやがって!」

「いや、これは……そんなに嬉しいものじゃないんだ」

「何だとぉ!? もっといいことをしているのか? くそぉ! MA-0!」

「イェッサー!」

 MA-0が右手をこちらに向けてきた。


 チュドーンという音とともにミサイルが発射され、足つぼマッサージその他はなし崩し的に終了した。

 迷惑極まりない話だけれど、この時の僕にとっては有難いことだった、のかもしれない。

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