第4話 魔央を知りたい

 須田院阿胤は世界中を敵に回して、色々な技術を盗み出し、それを元にMA-0を作り出したという。

 1人でそこまでやったと聞くとIQ300というのも満更嘘ではないのかもしれないが……。

「それだけの頭があるなら、別に魔央にこだわらなくてもいいんじゃないの?」

 魔央は可愛いけど、世界中探せばもっと上は沢山いるんじゃない?

 僕みたいな巻き込まれはともかくとして、わざわざ魔央に絡まなくてもいいんじゃないのかなとは思う。

「……考えてみよ。貴様、最果村だぞ。そんな冷静に世界のことを考えられると思うのか?」

「いや、インターネットは……、あの村にはないか」

 最果村は上下水道の普及率以外、全てが戦前レベルだったはずだからな。

 人口二千人の村が世界の全てと考えると、確かに魔央がトップオブトップになってしまうのかなぁ。

『ゲンザイ、アインサンノはーどでぃすくニハ、セカイジュウ ノ ジョユウ ガ ふぁいるトシテ、オサメラレテイマス』

「こらMA-0! 余計なことを言うんじゃない!」

 なるほど。須田院を取り巻く環境は分かった。

「私は理解できないのだ。IQ300ある私が童貞で、貴様のようなチャランポランした奴がハーレムを作っているという現状を」

 自分で童貞って言っちゃった。

 あと、僕がハーレム作っているっていうのは完全な誤解だから。

 しかしまあ、IQ300のせいかは分からないけれど、変な人間なうえに、生まれ育ちが戦前レベルのものとなると、確かに普通の女子には敬遠されそうだな。

「いっそのこと、アンドロイドをより完璧なものにして、アンドロイドと結婚したら?」

 自分の好みを完璧に反映していて、言うことは全部聞いてくれるし、お父さんの理想である娘と結婚するみたいなパターンになるし、言うことないんじゃない?

 MA-0も外見的にはほぼ魔央って感じだし、背負っているミサイル以外は人間って感じだし、この方向を極めればいいのでは?

「貴様ぁ!」

 うわ! 須田院が急に僕の胸倉を掴んできた。やばい、触れてはいけない琴線を踏んでしまったんだろうか?

「……全くその通りだ」

 ズコー!

「私は、この半年、色々な方法で彼女を作ろうとしたが、失敗した。そもそも考えてみれば不可能なことだったのだ。私はIQ300。人間の進化系だ。ホモ・サピエンスがホモ・ハビリスを望むようなものなのだったのだ、と」

 こういう言い方をするから更に嫌われるんだろうなとも思ったけれど、絡むのも疲れるから放置しておこう。

「だから、MA-0をより完璧なものにすることで解決しようと考えた。ただ、そのうえで問題がある」

「何?」

「MA-0は黒冥魔央の外見はほぼ完ぺきにトレースした。しかし、内面が分からない。だから、私は黒冥魔央の内面を知るべく、これを用意した」

 と取り出したものは、数百ページくらいありそうなハードカバーの本だった。

「この四千二百万のアンケートに答えてもらい、その結果を入力すれば内面もトレースできるはずだ」

「……」

 開いた口が塞がらないというのはこのことだ。

 何て面倒な奴なんだ、もういいじゃん、そんなの自分の好きなようにやれば。

 というより、それならそれで何で核弾頭ミサイルを掲載できるぞなんて日本政府を脅したんだ?

「あれは当座の生活費が欲しかった。日本を脅せば数億くらいくれると思ったんだ」

「……そういう姿勢だから、世界中から命を狙われることを理解した方がいいよ」

 本当はIQ300じゃなくて-300なんじゃないだろうか?

「とにかく、これに答えてもらえれば私はしばらく大人しくしていよう」

 しばらく……。

 本当に我儘な奴だけど、仕方ないかな。

「魔央、やってみる?」

「別に構いませんよ」

 魔央が了承したので、僕は分厚いアンケートを貰って、須田院にお引き取り願った。


 須田院とMA-0は隣のタワマンに戻っていき、部屋に平穏が戻る。

 武羅夫は「センサーが必要だなあ」と言いつつ、夕飯の買い出しに出かけていった。

 魔央はというと、参考書で勉強しているがごとく、須田院のアンケートを記入している。

「ピーマンは好きですか、嫌いですか? うーん、やや嫌いですかねぇ。ブロッコリーは好きですか? 考えたことないから、普通でしょうか」

 うわぁ、こんな感じで細かいところまで好き嫌いをチェックしているのか。大変だなぁ。

 まあいいや。魔央には頑張ってもらって、僕はその間、メジャーリーグの試合でも見ることにする。超谷のホームランを期待だ。

「……貴女はSですか、Mですか? 若干Sですかねぇ」

 ああ、確かに魔央は大人しいように見えて、結構容赦ないところがあるよね。SかMで言うならSだ。

「Sを選んだなら次のページの8へ。えーっと、貴女は身動きできない恋人を地面にへばりつかせています。どんな言葉でいたぶりますか?」

 は……?

「えっ、ということは、悠さんをへばりつかせて……、えっ、えっ?」

 これはまずい!

 魔央の頭から湯気が出始めている。

「それ以上想像したらダメだ!」


 ダメだなんて言われると、人はかえって意識してしまうものである。

 魔央の意識は太陽へと乗り移った。

「ほら、地球。あたしの靴を舐めるんだよ」

 太陽はそう言いながら、プロミネンスの鞭で地球をしばく。

『緊急ニュースです! ニューヨークからロンドンにかけて謎の火炎が襲来し、気温が1400度に達しています。死者は百万単位で発生している模様!』

 一撃で済むはずがない。

「ほらほらあ! 何とか言いなさいよ、地球!」

 我らの女王様太陽は、何度も何度もプロミネンスの鞭で地球を打つ。

 地球は瞬く間に灼熱の地獄と化した。

 世界は滅亡した。


『世界を救いますか?』

『はい ▶いいえ』

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