第5話 過去を知る
何てことだ。
ついに残りの救える回数がゼロになってしまった。
はあ、とりあえずやり直さないとな。
『そんな、ひどい……』
うん?
『もう一度聞きます。世界を救いますか?』
『はい ▶いいえ』
あれ、最初の設定が「いいえ」になっている。
あ、そうか。前回、銀河帝国を見殺しにしたから「いいえ」にセットされてしまったのか。
ヤバイ、ヤバイ。あやうく世界にトドメを刺してしまうところだった。
しかし、とにかくストックがゼロになったという事実は重い。
次、やらかしてしまうと世界が完全滅亡だ。
どうにかして、まだ到達していない好感度3200に行かなければならない。ストックを一つ増やす必要がある。
アンケートは一回回収して、中身を確認しながら作戦を考える。
とはいえ、前回、ヂィズニーランドに行っても増えなかったものなぁ。邪魔が入るというか、何というか。
あ、そういえば、今は邪魔はいないか。しかし、どうすればいいんだろう。
仕方ない。とりあえず、過去の話でもするか。よくよく考えてみると、羽子板で遊んだことについてもおぼろげな記憶で、魔央のことをよく知らないからな。
えっ、そんなこともっと早く聞いておけ?
仕方ないでしょ。そんなこと考える余裕もなく、色々な出来事が重なったんだから。
僕は応接間に戻った。魔央はさすがにまたやらかしてしまったということを自覚しているのか気落ちした様子である。
考えていても仕方がない。とりあえず切り出してみる。
「あのさ、よくよく考えてみたら、僕、昔のことってあまり覚えてないんだよね。もし、覚えているのなら教えてくれないかな?」
「えっ? あ、はい。分かりました」
僕の質問に意表を突かれたみたいだけれど、すぐに話し始めた。
「日本書紀によりますと、それは数千年の昔のこと……」
「いや、そこまで昔のことじゃなくていいから」
それぞれの破壊神から説明するつもりだったらしい。確かに素戔嗚とかシヴァ神とか、知っているようで知らないけれど(残りの二つは名前すら知らないしね)、それは今必要な情報ではないはずだ。
「封印の刻印とかあったじゃない。ああいう話は何時頃からあったわけ?」
「私もよく覚えてはいないですね……。ただ、両親が重苦しい顔をして『封印の刻印を解き放つ者は死をも覚悟せねばならない強い精神を持っていなければならない。厳選せねばならないな』みたいなことは言っていたはずです」
強い精神ねぇ。
確かに、何度も世界が滅ぶ様子を見せられたり、他の世界を滅ぼして見殺しにしたりしているから、生半可なことではやっていけないかもしれないなぁ。
「私についても悪しき瘴気がまとわりついていて、12歳くらいまでは呪符を貼らないことには近づけないということがあったみたいです」
「そうだったんだ。あれ、でも、僕はそうじゃなかったみたいだけど……」
「実は……」
魔央は物凄く言いづらそうな顔をした。
「実は、時方家が村八分に相当するようなことをしたということで、息子を生贄として捧げようと村議会で決まったそうです」
「……えっ?」
何だってー!?
魔央の語るところによると、最果村には呪いの塔と呼ばれるものがあって、それは村の外には出してはならないものだったらしい。
ところが、僕達の両親が。
「これ、ブログに貼ったら受けるんじゃない?」
とか言い出して、写真に撮ってブログに掲載したらしい。
それで最果村に連れ戻されて、魔央の瘴気の実験台にさせられそうになったところ、「自分達ではなくて、息子を代わりに」と主張したのだとか。
いや、そこ、「息子の代わりに私達が」っていうのが親なんじゃないの? 自分達の代わりに息子を差し出しますって何ていう親なんだ。
で、僕を実験台に差し出すことが決まったので、正月に帰省した際に、僕に黒冥家の近くで凧あげをするように勧めてきたのだとか。
当然、その先は魔央を近づけて、その瘴気がどのくらい僕を蝕むかという様子見をすることだったらしいのだけど。
ところが、案に相違して、僕は魔央に近づいても全く平気だった。
「多分、親に捨てられるくらい邪気が溜まっていて、私の瘴気と共鳴したのだと思います」
サラッと語られるけれど、正直「親に捨てられるくらい不幸な子なので暗黒の力があった」とかディスられているように思えてならない。少し前に先輩が「封印された記憶がある」とか言っていたけれど、ひょっとして、僕、自分で思っていたよりも可哀相な子供だったのではないだろうか?
「で、その場で黒冥家の家族会議が開かれて、この少年を生贄から破壊神の花婿にしようということが急遽決まったそうで、それで羽子板に、という話になりました」
「そ、そうなんだ……」
おかしい。
過去のことと、魔央のことを知れば、ひょっとしたら自覚が出たり、より好きになったりするかもしれないと思ったけれど、両親に対する不信感しか芽生えていない。
過去を聞き出す作戦は、失敗してしまったらしい……。
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