第2話 秘密基地は隣に

 魔央のかつての家庭教師・須田院阿胤。

 魔央に振られたことでいきなり破滅への道を選び、今では破壊型アンドロイドを開発するに至ったらしい。

「一体、どんな奴なの?」

 相手にするしかないのだろうけれど、情報が足りない。

 山田さんの時、おまえは何も知らなかったじゃないかと言われると返す言葉もないのだけど、とにかく情報は欲しい。

「ちょっとお父さんに聞いてみます」

 魔央が電話を手にした。携帯電話ではなく、固定電話を手にしたことには何か意味があるのだろうか?

 分からないけど、魔央はとにかく電話をかけ、話をしている。

「そうなんですよ。私に似たロボットを作ったみたいです」

 ロボットって言うのはやめてあげて。本人はアンドロイドって言っているんだから。

「分かりました。速達で送っていただけるのですね。では、待っています」

 と言って、電話を切って、「履歴書などを速達で送ってもらえるそうです」と答える。

 うん、そうね。

 最果村だもの。お父さん、スマートフォンとか使わないし、固定電話のみだよね。メールとかファックスも期待できない感じよね。

「……お父さまが言うには、村で一番の秀才だという話でした」

「さっきの映像を見ている限りだと年齢は25前後くらいよね。それでアンドロイドを創れるとなると、相当な才能の持ち主と見ていいわね」

 先輩が冷静に評価をしているけれど、確かに才能だけを見ると相当なものがあるような感は受ける。

 しかし、いくら何でもアンドロイドに核ミサイルを詰めたから世界が滅ぼせるというのはどうだろう。そんなに簡単に世界が滅ぶものなのだろうか?

 ……滅びますね、はい。

「……悠さん、どうかしましたか?」

「何でもないよ」

 僕の世界を救う能力は、魔央が滅ぼした場合に限られるだろうから、須田院阿胤が滅ぼした場合には適用されないだろう。となると、彼がミサイルを打ったら、先んじて世界を滅ぼして(ミサイルも消してしまい)、再生するしかないことになる。ただ、そのストックは一回だ。

 と考えると、結構厄介な相手と言えるのかもしれない。


 果たしてどうしたものか。

 今まで一度も出たことのないベランダのベンチに腰掛け、インスタントで作ったキリマンジャロコーヒーを飲みながら善後策を練る。

 すみません、嘘です。ただ、何となくここでコーヒー飲みたかっただけです。

 罪滅ぼしに一応考える。現時点では決定的に不利だ。何しろ僕達は相手の居場所を知らない。あれだけのアンドロイドを完成させるとなると、どこかの山奥に秘密基地でも構えていそうな気がする。

『ニンゲン、ニンシキ。クロヤミマオ ノ フィアンセ、トキカタユウ ト カクニン』

 そう、あんな感じのアンドロイドが……

 ……

 えぇーっ!?

 先程のブルーレイ映像と同じアンドロイドが上空を飛んでいて、そのまま隣のタワーマンションの最上階のベランダへと降り立った。


 隣のタワーマンションは50階建てらしいから、僕達のマンションより若干低いけれど、最上階のベランダはやはり広い。三階の差はあるとはいえ、大声を出せば届く距離でもある。

「お帰り、MA-0」

 ベランダに出てきたのは、間違いなく須田院阿胤だった。

 まさか隣のタワマンにいようとは!

「何をしているのさ!」

 思わず叫んでしまった。

「何を、だと? むっ、貴様は何者だ!?」

 阿胤が叫ぶ。あれ、部下のアンドロイドはトキカタユウって言っていたのに、本人は分かっていないのか?

『マスター、カレコソ、トキカタユウ デス』

「何ぃ? 貴様が時方悠だと!? ということは、そこに黒冥魔央もいるのだな?」

 あ、まずい。魔央の居場所がバレてしまいそうだ……。

「どうしたの? 時方君?」

 お、先輩が気づいて声をかけてきた。

 ここは、先輩がいい先輩であることを信じて、駆け引きだ。

「オー、ワタシ、ワカリマセーン。ココ、ヨコハマ・ジーエヌエー・ボイスターズサークル ノ ホンキョチ デース」

「意味不明なエセ外人言葉を使うな!」

「オー、オー、オー、オー、ジーエヌエー、ボイスターズ! カガヤク、ホシタチヨー!」

 僕が歌いだすと、先輩もつられて歌いだす。

「レッツゴー! オーオーオーオー、ジーエヌエー・ボイスターズ、ユメワ、カナウモノー!」

「な、何だと!?」

 出てきた先輩を見て、びっくりしている。

「おのれ! 時方悠! 貴様、黒冥魔央という許婚がありながら、そんな美女を横に侍らせおってからに!」

 あれ、阿胤が泣きながら絶叫している。

「……あれ? さっきのアホ科学者?」

 先輩がトドメの一言を放ち、阿胤は涙と鼻水をまき散らしながら叫ぶ。

「許すまじ! 時方悠! 世界の前に、貴様を粉みじんにしてくれるわ!」

 え、えぇーっ!?

 何だか、相手の恨みをマックスで買ってしまったようだ。

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