破壊神vs狂気の科学者

第1話 破壊用アンドロイドMA-0

 ヂィズニーランドから戻ってきて一週間が経過した。

 先輩から「好感度に差がついているぞ」と言われたけれど、その後も回数は増えていない。数字自体は増えているとは思うんだけど……。

 ま、この一週間は比較的平和に推移していたし、楽しい日々を送れている。

 首相の気持ちも分からなくはないけど、地味でも、同じような時間が続くことが安らぎも得られていくんじゃないだろうか。


 この日の夕方、武羅夫と先輩も交えてトレーニングルームにいた。

「そういえばさ、魔央ちゃんは、今まで学校にも行ったことがないんだっけ?」

 スクワットをしていると、トレッドミルを歩いている魔央と先輩が会話を始めた。

「はい、あまりにも特殊なので学校にも行くとまずいと言われました」

「でも、学校で勉強するようなことは大体分かっているわよね?」

「そうですね。家庭教師さんがついてくれましたので」

「へえ、家庭教師の中にはイケメンとかいなかったの?」

 ブッ。

 何で許婚のいるところでそういう話をするの?

 あ、許婚が聞いているから、わざわざしているのか……。

「イケメンというのがどういう人なのかがちょっと分からないのですが、物凄く頭が良くて、『僕は福山雅治より顔がいい』と言っている人はいました」

「へえ、かっこいいと思ったりしていたわけ?」

「うーん、そこは分かりませんけれど、色々と面白い人だなと思っていました。2年前に『僕と共に世界を救おう』とも言われたのですけれど」

「おっ、それって告白じゃん。何て答えたの?」

「『私は世界を滅ぼす側ですから』って断りました」

「えぇ、勿体ない。相手は何て言っていたの?」

「泣きながら『だったら、おまえが滅ぼすより先に俺が滅ぼしてやるバーロー。一緒にいた時間返せ。おごってやったドリンク代返せ』って怒っていました」

 うわ、それは何ともセコイ人だなと思ったら、先輩も同感の模様。

「ああ、それは付き合わない方が正解ね。勝手に自分の妄想を先走らせて、理想を他人に押し付けるような男だわ」

 確かに変わった男だとは思う。

 まあ、僕の周囲にも先輩含めて山田さんとか木房さんとか変な女子は多いし、何なら魔央だって滅茶苦茶だけど。

 変人という点では武羅夫もかなり変だが、まだまともな部類に見えるからな。

 うん、武羅夫はどこに行った? と思ったら、隅の方で電話をしている。

「分かりました。取りに行きます」

 と言って、部屋を慌ただしく出て行った。


 しばらくして戻ってくると、手にブルーレイディスクをもっていた。

「悠、ちょっといいか?」

「どうしたんだ?」

「昨日、官邸にこのDVDが送られてきたらしい」

「これはブルーレイディスクじゃないのか?」

「どっちだっていいだろ。似たようなものなんだから」

 ま、確かに。

「中には『これを黒冥魔央に見せるように』と書かれた手紙も同封されていたようだ」

 魔央に見せるように?

 官邸に『魔央に見せるように』と送りつけるということは、破壊神であることを知っている奴ということになるのでは?

「ああ、で、中身を見た石田さんがビックリして、至急我々も見た方がいいということになった」

 一体、何なんだろう?

 応接間に移動して、テレビをつけてディスクをセットする。

 と、見るからに怪しい基地みたいなものが出てきた。続いて場面が切り替わり、室内が映る。怪しいユーチャーバーの自己紹介か何かかと思ったら、結構なイケメンがヌッと現れた。

「久しぶりだな! 黒冥魔央! 僕のことを覚えているか? 偉大なる天才科学者須田院阿胤すだいん あいつだ!」

 すだいん・あいん……。名前から読むとアインシュタインか……

 もしかして、こいつがさっき魔央が言っていた奴か? 福山雅治にはあまり似ていない気もするが……

「貴様に振られて二年! 僕は貴様より先に世界を破壊すべく、最強のメカを創ることに専念してきた! そして遂にこの最強アンドロイドを開発した!」

 と、画面が切り替わり、どこかの山の中を飛んでいるアンドロイドが映る。

「うん、このアンドロイド、魔央ちゃんそっくりじゃん」

 先輩が驚く。

 確かに、顔とかそういうのは明らかに魔央を意識して作ったというのは分かる。

 飛んでいるアンドロイドがミサイルを打つと、前方にいるどこかの軍の戦車隊が瞬く間に吹き飛んだ。

「驚いたか!? このミサイルには世界最強の核弾頭を搭載することだって可能だ。つまり、世界を滅ぼすことができるということだ!」

 画面の中で阿胤が威張っている。

「驚いたか? 驚いただろう! 僕はたった今、このスーパーアンドロイドMA-0をもって、世界を打ち滅ぼすことを宣言する! だが、黒冥魔央! 君がかつての自分の所業を悔いて、やはり僕と付き合うというのなら考え直さないでもない。以上だ! ワハハハハ!」

 と長いベロを出しながら大笑いし、映像は終了した。

「……」

 正直に言うと、僕は安心した。

 僕は心のどこかで自分が変人を呼び寄せやすい体質なのではと不安を抱いていた。先輩、山田さん、木房さんと続いていたから。

 でも、そんなことはなかった。

 魔央の過去の知り合いだって大概だと安心することができたから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る