第8話 占い

 その後も色々あったけれど、18時にレストランで食事をして、21時頃までその他のアトラクションを楽しみ、22時過ぎに帰宅の途についた。

 魔央や木房さんは疲れてしまって、後ろで寝てしまっている。リムジンのいいところは、そういうところで横になれる場所が沢山あることだね。

「私は東京駅でいいわ」

 と山田さん。聞くと、東京駅から羽田空港に向かうのだとか。

「海外にでも行くわけ?」

「ええ、ちょっとカシミールに」

「……国際問題は起こさないでね」

 いや、起こしたなら他人のフリするだけだけど。


 東京駅で山田さんを下ろして、赤坂方面に向かう。

「そういえば」

 先輩が口を開いた。

「さっき、魔央ちゃんが3200がどうと言っていたわよね?」

「そうですね。それが何か? はひ?」

 先輩が正面から口の両端を掴んで引っ張る。

「それが何か、ではないでしょ。時方悠、この前、あと1200で3200だと言っていたじゃない? 今日は増えたわけ?」

「はひ、ほうひえは(あ、そういえば)……」

 増えていない。

 いや、告知があるのは増えた時だけで途中経過は分からないけれど、まだ3200には到達していないようだ。

 そこでようやく口が解放される。

「ということは、現状、魔央ちゃんに好感度で負けているというわけね」

「は、はぁ……」

「これは由々しき事態だと思わないの? あんたは相手ほど魔央ちゃんのことを好きになっていないということよ」

「それはまあ……」

 いや、確かに問題と言われればそうかもしれないけれど、それ先輩のせいでもあるような。

「ただ、私が思うに球場で見る限り、時方君はそれなりに情熱的な人間ではある。今は遠慮が先だっているのだと思うわ。だから」

 だから?

「魔央ちゃんを完全に洗脳して、ボイスターズのことを第一に考える頭にして、そのうえでライトスタンドで観戦すれば、一気に盛り上がると思うわ」

「洗脳という時点で既に犯罪ですよ」

 破壊神を洗脳しようなんて、どういう了見なんだ、このひとは。しかも、これで聖女っていうんだから訳が分からない。

「というより、ライトスタンドでいいんですか? スイート席は?」

「あたしね、この前思ったのよ。よくよく考えれば、あの観戦費用って国が出しているわけでしょ? ということは、あまり頻繁に行き過ぎると税金の無駄遣いとして川神家がやり玉にあげられる可能性があって、それは望ましくないなと」

 そうですね。

 税金で野球観戦していたことにようやく気付いたんですね。

「その点でも魔央ちゃんを洗脳して、魔央ちゃんが『試合を見たい! 見ないと世界を破壊する』くらい行けば、私も大手を振ってついていくことができるわ」

「だから洗脳はやめましょうよ」

 何でこの人は、野球が絡むとここまでポンコツになるんだ。


「……ま、それは半分は冗談だけれど」

 半分は本気なわけですね。もちろん、知っていますけれど。

「ただ、時方君はどうも女子に対して澄ましているところがあるわね。私にとって、時方君は観戦で変な危険を感じなくていい相手というメリットはあるけれど、今は時方君が肉食系にならなければいけない世界。そこでいてこの淡々とした感じは明らかにマイナスになっている」

「確かに、悠は殊更普通ぶっている感はあるよな」

 武羅夫も同調した。

「ということで、さっき食事中に占ってみたのよ。一体、何が時方悠を澄まし系にさせないのかって」

「それで、何か分かったんですか?」

「どうやら、高校時代に深いトラウマを刻み込む出来事があったみたいね。あまりに記憶の封印が固いから中までは見られなかったけれど」

「マジですか? 俺、悠の近くにいたけれど、そんなことはなかったんですけれど」

「……多少想像はつく。ただ、これについて私から口を挟むのはやめておくわ。語るには、あまりに恐ろしいことだから」

 何だっけ? そんなことあったっけ?

「更に、幼少期にもちょっとした心の傷を植え付ける出来事があったようね。これも記憶の封印が施されているみたいだけれど」

 マジですか? それが本当だと、僕の記憶って、封印されていること多すぎない?

「ま、人間、思い出したくないこととかは沢山あるからね。そして、この先も波乱が待ち受けているわ」

「波乱ですか?」

「さっき時方君が潰した銀河帝国……。その国の最強の女戦士……、恥ずかしい服装したおねーちゃんが世界の仇だということで時方君を狙っているわ」

 げげっ!? 本当に生き残りとかいたの?

 恥ずかしい服装のおねーちゃんって、まあ、ゲームとかフィクション世界にはいるけれど、本当にあんな恰好の女戦士がいて、僕を殺しに来るというわけ?

 や、やはり救っておいた方が良かったんだろうか。

「ど、ど、ど、どうしましょう」

「……ま、それは今、思いついた適当な話だけれど」

「先輩! 一瞬、心臓が縮み上がりましたよ!」

「ごめん、ごめん。でも、この先もしばらく波乱の相が出ているわね。そう、山田さんや木房さんは、まだまだ序の口……」

 あの二人が序の口?

 というか、先輩、自分をさらっと外しているの、ずるくないですか?


 そんなことを考えているうちに、ようやくタワーマンションへと戻ってきた。

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