第6話 究極の選択

 ギャラクシーマウンテンは、宇宙空間をジェットコースター的に進んでいくという代物だ。更に名作『ギャラクシー・ウォーズ』の世界観も取り入れているらしく、映画好きなら感動間違いなしという触れ込みなのだが……。

「これ、魔央が乗っても大丈夫ですかね?」

 念のため、後ろにいる川神さんに聞いてみる。

 ちなみに布陣としては、先頭に僕と魔央、二列目に川神先輩と木房さん、三列目に武羅夫と山田さんという並びである。

「……どうだったかしらねぇ。ゆっくり動いているところでは映画のシーンが見られたような気がするけれど」

「怖いものではない?」

「そこまでのものじゃないわよ。身長102センチ以上オーケーよ。子供でも乗れるものなのだから」

 なるほど。確かに。

 少し気を強くして、ギャラクシーマウンテンに臨むことにした。


 コースターはゆっくりと動き出す。

 映像シーンが映っている。宇宙のとある世界、そこではダーク・ベーカリーが星々を支配し、人類を奴隷としてこき使っていたというようなシーンが映し出されている。

 うん? そんな設定なの? もっと異星人との出会いとか宇宙旅行のシーンとか、戦闘シーンに満ち溢れていたような気がするけれど。

「前はこんなものじゃなかった気がするけれど……」

 後ろを向く余裕はないけれど、川神先輩が不思議そうな声をあげている。

『フハハハハ』

 うん、何だ? この声は?

『地球は、宇宙帝国が支配した。地球人は全て奴隷として連れていく!』

 えっ、何? これ、アトラクションの余興みたいな奴なの?

 このコースターに乗っている間、僕達、地球人が立ち上がって何とかする設定なわけ?

 身長102センチにはちょっと理解の難しい仕様なんでは。

「あっれー? こんなものあったかな?」

 先輩が首を傾げている間に、一度目の落下。

「うわー!」、「きゃー」、「怖いでありますー!」

 速度が低下して、また声が聞こえてきた。

『連れて行け!』

 おぉぉ、映像には宇宙船に強制的に搭乗させられる人達の姿が映っていた。結構リアルだな、おい。

 魔央、大丈夫かなと思って横を見ると、何やらふるふると震えている。

 やばい。ちょっと映像内容に感情移入している気がする。怒ったりしないよね?

 こんな世界なくなった方がいいなんて思ったりしないよね。

「魔央、冷静にね」

 自然と右手を伸ばして、魔央の手に乗せる。

「は、はい……」

 魔央は落ち着いたけれど、まだ前半。ここからどうなるんだろうか?


 映像は更に続く。

『おらー! 働けー!』

『ダーク・ベーカリー様のパンを作るのだー!』

『こんな荒地で小麦を作っていては、多くの人を養いきれません。どうか、パンではなく生産力の高い米を……』

『貴様ー、地球人のくせに我々に意見するかー!』

 結構、というか、ものすごく生々しい映像が映し出されている。

「この世界はまさに負け犬の世界であります。呪うための道具すらなさそうであります」

 いや、木房さん、そういう問題じゃないから。

「そもそも、『ギャラクシー・ウォーズ』ってこういう内容じゃないわよ。私、時方君と宇宙を支配する夢も見ていたから、全編把握しているのだから」

 そんな夢は見なくていい。

 しかし、確かに変だ。

 映画の内容がどうというより、こんな憂鬱なジェットコースター、ありえないんじゃないか?


 多分、ジェットコースターは後半に入った。

 映像内容は更に生々しいものになっていき、宇宙人が強制労働させられている地球人を鞭打っている。映画を取り入れているのなら、そろそろ地球人側が反撃しないといけないのに、そんな気配が一切ない。

 このままだと、ただの憂鬱バッドエンドという最悪のジェットコースターになるのだが、世界のヂィズニーがそんなものを作るのだろうか。

『このままでは生活できません。どうか我々にパンを……』

『パンはダーク・ベーカリー様が食するのだ。貴様ら地球人はケーキでも食っていろ!』

「ケーキなんてあるはずないでしょう! 許せないです!」

 うわぁ!

 魔央が、魔央がキレてしまった!

 世界が滅ぶ!

 このジェットコースターを選んだのは失敗だったぁ!


 あれ?

 世界が滅んでいない?

 何か『チュドーン!』という爆発するような音が聞こえたけれど、何も起きていない。

 どうやら最後の回転も終わり、スタート地点に着いた。

 キャストが慌てて駆け寄ってくる。

「申し訳ございませんでした! いきなり何者かにシステムを乗っ取られてしまいまして、本来のものとは違う映像を流してしまいました!」

 あ、そうなんだ。やっぱり、そうだよね。

 と、武羅夫が何か電話で話をしている。

「なるほど……。分かりました」

 少し深刻な顔をして電話を切った。

「どうしたんだ?」

「悠。驚くなよ。今の映像は宇宙からの電波が乗っ取ったものらしい」

 ……は?

NASAアメリカ航空宇宙局の職人が来て調べるらしい」

 ジョークにしてはつまらないぞ。そう答えようとした時、時間差でいつものやつがやってきた。


 宇宙帝国は滅亡した。


『宇宙帝国を救いますか?』

『▶はい いいえ』


 えっ、えっ…?

 どういうこと?

 ちょっと冷静になろう、自分。人という文字を書いて飲み込んでと、うーん。


 僕達がジェットコースターに乗っている間、本当に地球を支配しようとしている宇宙帝国がこのジェットコースターのシステムを乗っ取り、宇宙帝国のプロモ映像を流した。

 魔央がそれに怒って、こんな世界滅びればいいのに、と思った。

 結果、宇宙帝国が滅びた。あまりに世界が広すぎたのか、あるいは違う宇宙だったのか、この世界には影響が及ばなかった。


 こう解釈するのが自然なのだろうか。

 とすると、宇宙帝国なんか救っても仕方がないから、ここは世界を救わなくていいことになる。何せ救える回数は残り一なんだ。できれば使いたくない。

 とはいえ、魔央は最初の日、宇宙諸共世界を滅ぼしたことがある。

 それに、宇宙同士が繋がっているみたいな可能性も指摘されている。完全に滅亡させることで、この世界にも悪影響が及ぶのではないだろうか。


 これは、これは迷う……。

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