第4話 輝け、星型ストロー
船はゆっくりと進み始める。
最近、嵐のような激しい時間経過ばかり感じていたけれど、今の僕達の周囲はとても穏やかな時間が流れている。
「夜はライトアップされるらしいね。向こう側から写真を撮るのもいいかもしれない。武羅夫とかに乗ってもらおうか」
「いいですね」
何となくいい雰囲気じゃないか? ちょっと肩に手をかけるくらいいいかもしれない。
と思った途端に電話が鳴った。画面を見ると『首相』とある。
何なんだ? 先程の四里泰子の件だろうか?
「もしもし?」
『やあ、時方君、楽しんでいるかね?』
「ええ、まあ……。今はタイタニック号に乗っています」
『何? 随分のんびりしたものに乗っているんだな。君は吊り橋効果というものを知らないのか?』
「いや、知っていますけれど……」
吊り橋効果ってあれだよね? 男女が高い吊り橋にいると、怖くてドキドキするのを相手に対してドキドキしていると勘違いして、相手をすごく意識するという効果のことだよね。
それは知っているけれど、ただ、ドキドキが行きすぎると魔央の「この場が怖い⇒この場=世界をなくしてしまえ」という破壊神理論が炸裂するから、しないようにしているんだけれど。
『日本政府も協力しよう』
「は……?」
僕は思わず素っ頓狂な声をあげた。と、同時に船がグラッと揺れた。
「うわっ!?」、「きゃあっ!」
ちょっと待て!?
まさか、船を揺らしてスリルを上げようっていうの?
何でそんなことをするの? 馬鹿なの? 世界を滅ぼしたいの?
首相なんだから、会見と国会で仕事してよ。余計なことをしないでくれ!
「ま、魔央! 捕まっていて。大丈夫だから」
魔央の限界点を超えないことを祈りながら、僕は揺れる船の柱あたりを掴む。あの首相、山田さんにぶっ飛ばしてもらおうか、頭に浮かぶのはそれだけだ。
更に数回揺れた後、ドカン! という一際大きな音がして、激しく揺れた。
これで魔央が何とか自制してくれたのは小さな奇跡かもしれない。
「うん……?」
どうやって揺らしていたのかは分からないけれど、どうやら普通の船を勝手に揺らしたことで座礁してしまったらしい。
タイタニックはやはり沈む運命にあったということだろうか。幸いなのは水深が浅くて、船が沈むことはないということだろうか。
僕達は船の一番前で十字架ポーズをしたりしながら、救援を待つしかなかった。
10分後、キャストの小船に乗って陸に戻る。
「申し訳ありません」
とキャストが土下座せんばかりの勢いだけれど、彼らには全く責任がない。悪いのはあの頓珍漢な首相だ。船の修理代を本人に支払わせたいくらいである。
「はあ……、余計な連中がいるかもしれないとなると」
ますますアトラクション選びは慎重にならなければならない。
「シアター形式か。これなら、余計なことはできないだろう」
ヂィズニーキャラクター達が織りなす愉快な世界とある。
正直、僕はただ見ているだけのアトラクションは好きではないのだけれど、現状、もっとも危険が少ないのはこれだ。
虎穴に入らずんば虎子を得ず?
虎の子はいらんのだ。僕が求めるのは絶対的な安全だ。
激しい喜びはなくてもいい、ひたすら安全に生きる吉良吉影の追い求めるような世界だ。バイツァ・ダストが欲しい、本当に欲しい。
10分後、僕達はシアターを出た。
うーん、ちょっと微妙だった。魔央はどうなんだろうと見ると、欠伸をしている。
まずい。これは絶対面白くなかった反応だ。
昔の選択肢型恋愛シミュレーションゲームなら、失敗に属する選択肢を選んでしまったのは間違いない。好感度が下がってしまったかもしれない。下手をすると主人公嫌い爆弾が点灯するかもしれない。
安全を求めすぎてもダメだった。やはり、リスクを取らないと得るものはないのか。
失敗したと思った途端、急に疲れてきた。
仕方ない。ひとまず休憩だ。コーヒーでも飲んで一息つこう。近くのカフェに入った。
「えーっと、コーヒーは……、魔央は何にする?」
「私はメロンソーダがいいです」
「オーケー。すみません」
スタッフを呼んだところ、何故か青い大きなドリンクをもってきた。
「こちら、あちらのお客様からです」
「は?」
何で、ヂィズニーのカフェで、そんなバーみたいなことが起こるんだ。
一体誰がと思って見ると、先輩がなんとかフラペチーノみたいなものを飲んでいた。その横で木房さんが「美味しいですぅ。負け組として申し訳ないですぅ」と泣いている。負け組とかこだわらずに素直に楽しんだらいいじゃんって思う。
「悠さん、このストローは何ですか?」
と、魔央の質問を受けて、ストローを見た。
その時、僕の身体に電撃が走る。
そういうことか!
先輩は飲み物を頼んだのではなく、この、星の形のカップルストローを使わせたかったんだ!
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