第3話 恐怖のアトラクション選び
ヂィズニーランドに遊びに来たはずなのに、どうして、こう頭の痛い問題ばかり怒るのだろう。
山田さんがロープでぐるぐる巻きにした四里泰子を引き連れる様を見て、僕は溜息をつきたくなった。
「言論の自由を暴力で不当に弾圧しようとするなんて許されないわ!」
四里泰子は叫んでいるけれど、カメラも携帯電話も破壊したからそこは問題無さそうだ。
「もしもし、ヘリを頼む。面倒な記者にお帰り願いたいのだが」
武羅夫がどこかに頼んでいる。官邸か警視庁だろうか。
四里泰子の言い分を全て受け止めるのも抵抗があるけれど、こちらはこちらの都合でヂィズニーランドを貸し切りにしている。しかも警視庁とか呼び出しているから、権力の横暴というのも間違っているわけではない。
「頼みますよ総理。変な記者とか潜り込ませないでください」
『アイムソーリー』
寒くなるダジャレを耳にしながら、四里さんの様子を見る。総理という言葉が出て来て、かなり慌てている。
「こ、これは……総理も絡む大不祥事だというわけ!? 私は殺されてしまうの?」
うーん。
殺すことはないけれども、週刊誌の記者につきまとわれるのは面倒だよなぁ。
と考えていると、山田さんが先輩にタッチした。
「でやっ!」
先輩が四里泰子の頭にチョップを繰り出した。そうか、先輩は以前、山田さんの記憶を失わせたことがあったんだ!
「ぐぬっ!? ぎゃあ!」
「ん? 間違ったかな?」
えぇぇ!? 先輩?
「なわけないでしょ。冗談よ、冗談。これであたし達に会った記憶は失っているわ。多分ヂィズニーランドに潜り込む直前までしか覚えていないはず」
な、何て便利な……
ということで、四里泰子はヘリコプターに乗せられて一安心。
しかし、彼女とはまた会うことになりそうだ。そんな不安が沸き上がる。
「ところで山田さん」
「何?」
先輩が山田さんの肩を掴んだ。
「貴方も隠しカメラとか用意していそうね」
先輩の言葉に山田さんが、「め、め、め、滅相もありません」とすさまじく動揺して答えている。確かにユーチャーバーだものなぁ。
「ボディチェックよ。二人も来てもらえる?」
先輩が、魔央と木房さんを連れて女子トイレに連れていった。
しばらくすると、「そんなところまで調べると言うの!?」という山田さんの抗議の声がして、「まさか皮膚の下に埋め込んでいようとは……麻薬の売人並ね」という先輩の言葉が続いた。更に「うわぁ、そんなところにカメラがあるなんて」と魔央が驚き、「こんなにカメラを持っているなんて超、超、羨ましいであります」という木房さんの言葉が聞こえる。
20分ほどして四人が出てきた。叱られた子犬のような山田さんに対して、三人はカメラやらスマートフォンを10個ほど持っている。
予期せぬ出来事などに対処しているうちに11時になってしまった。そろそろアトラクションを楽しまないと。
と、山田さんが射撃を始めている。
「ハッ!」
華麗な手さばきでライフルを操り、ダダダダダと次々に標的を倒していっている!
あれ、そんな連射が効く銃なんだっけ? ここの銃。
「ハー、撃ちまくるとストレス発散になるわ。もう一回」
射撃に魅了されているらしい。
でも、まあ、自分の世界で楽しんでいるみたいだし、ここはこのまま好きなだけやらせておこう。
しばらく歩いていると、先輩が唐突に。
「あれに乗るわよ」
と急流すべりのアトラクションを指さした。
いや、あの手の怖いやつは……。
魔央が怖がって、「こんなところ嫌だ」と思った途端に世界が滅ぶ可能性があるからなぁ。
「仕方ないわね。貴女、ついて来なさい」
先輩が木房さんを連れていく。「わ、ワタクシが乗るのでありますか?」とびっくりしているけれど、そもそも木房さんは先輩を尊敬しているらしいので、すぐに気を取り直して楽しそうに向かっている。
あれ?
気づいたら、僕と魔央と二人だけになったぞ。
もしや川神先輩、気を利かせてくれたのだろうか? ボイスターズが絡まなければスペック高い人だから、ありえなくもない。
しかし、唐突に二人になると、ちょっと緊張するな。
「どこに行く?」
尋ねるけれど、魔央は「うーん」と言って。
「お任せします」
と答えた。
スリル系や恐怖系は行き過ぎると逆効果になる危険性がある。逆効果になるのもさることながら、それが世界滅亡を伴ってしまうと痛い。だからひとまず回避した方がいい。
そうなると必然メリーゴーランドやティーカップ、あるいは明るい場所を移動して動くのんびりしたものが候補になる。
「よし、船に乗って園内を回ろう」
まずは無難にこのあたりから行くのがいいはずだ。魔央も了承したので、豪華客船タイタニック号に乗った。最大で400人以上乗れる船に僕達二人だけというのは何とも贅沢なのだけれど。
この選択肢自体は間違ってなかったはずだと思う。
しかし、僕は見落としていた。
この事態の裏に国家の陰謀……正確には、浅はかな計画があったということを。
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