第2話 週刊誌の女
ヂィズニーランド当日。
僕達は朝六時に起きると、リムジンに乗ってまずは渋谷に向かった。そこで先輩と木房さんを拾い、高速をヂィズニーランドに向かう。
「今日、ヂィズニーランドは大規模メンテナンスを行うということで急遽休園ということになっている」
なるほど。メンテナンスだから、休みだけど動いていても問題はないわけね。
だけど、僕達が遊んでいる様子を誰かに撮られたら大問題になったりしないだろうか?
「大丈夫だ。ドローン一匹入れないような監視体制を敷いている」
武羅夫が胸を張って言うが、数日前に率先して情報を先輩に漏らした奴に言われてもなぁ。
ともあれ、到着して無人の園内に入った。
うーむ、広々としている。
「むっ、あれは何らかのアトラクションでありますか?」
唐突に木房さんが空を指さした。キィーンと音をたててジェット機が飛んでいき、何やらパラシュートぽいものが開いて降りてくる。
「えっ? あいつってまさか」
武羅夫が仰天している。
そうだよな。あれは彼女しかいない。
というか、ドローン一匹入れない監視体制じゃなかったのか。
堂々とパラシュート降下している人に気づかないのは大失態なんじゃないか?
しかも下から見ていてもはっきり分かるくらいパラシュートにデカデカと『山田狂恋見参』と書いてあるぞ。
それにしても、やはり来たのか、山田狂恋……。
あ、でも、僕達が来ているということは多分知らないはず。
どこかに隠れていればやり過ごすことができるんではないだろうか。
なんていう考えは甘かった。
「山田さーん、こんにちは!」
魔央がまたしても無邪気に嵐の種をバラまく。
「時方君! 私がヂィズニーランドに潜入する日を選んでやってくるなんて、やはり私達は運命の赤い糸で結ばれているのね!」
「は、ははは……。何のために潜入しているわけ?」
「もちろん、来世で結ばれた時のための準備活動よ。本物が来てくれるなら、シミュレーションとしてバッチリね!」
来世でヂィズニーランドに行くことが決まっているかのような物言い。頭が痛い。
頭は痛いけれど、一方で予想していたメンバーが揃ったというのは事実である。問題はここからどうするかだ。
「これからどうしよう?」
と尋ねた瞬間、その音が聞こえた。
『パシャッ』
僕は思わず武羅夫を見た。
「ああ、シャッター音が聞こえた。そこか!」
武羅夫が
「逃さぬ! 伊賀忍者の後裔を舐めるな!」
武羅夫が追いかける。僕達もつられて追いかける。
女は無言で逃げる。
あれ、女の方が速くない? 次第に武羅夫との距離が空いているような。
「中高陸上部を舐めないでもらいたいわ!」
女が勝ち誇ったかのように叫んでいる。
まずい。このままでは僕達がヂィズニーランドを貸切っていることが発覚してしまうかもしれない。
と、木房さんが電話をした。「入り口方面に逃げているであります!」と誰かに連絡を取っている。しばらくすると前方から悲鳴が聞こえた。
「な、な、何なのよ、あんた達!?」
女がへたれこんでいて、その周囲に十数人の白装束の男女が立っている。
もちろん、負け組教教徒だ。木房さんについてきていたのか(どうやって入った?)、その場で湧いて出てきたのか(ヂィズニーランド内部に定住?)は分からないけど……
「こ、殺されるー! 助けて!」
女が情けなくわめいているけれど、確かにぱっと見は怪しい集団が女性を取り囲んで、これから生贄にでもしようとしている状況にしか見えない。
「失礼なことを言わないでほしいであります! 負け組教団は三年を超える犯罪は決してしないのであります。殺人など言語同断!」
木房さんが怒っているけれど、そもそも何人か白装束に返り血みたいなものがかかっているからねぇ。見た目だけだと普通に狂信集団だよ。
「君、さっき僕達のことを撮影していたよね?」
それはさておき、女に問いただす。すると、しらばっくれる。
「何のこと? 今日、本当にヂィズニーランドが休みなのかなと思って入ったのよ」
と、山田さんが唐突に近づいた。女が「何をするのよ?」と身構える暇もなく、まるで熟練のスリのような素早さで鞄の中からデジカメを取り出した。
「ちょっと! 人のものを勝手に見るんじゃないわよ! ヒエッ!」
山田さんが無言で脇差を取り出し、女はコクコクと無言で頷いた。
「やはり撮っていたわね」
そういうと、ポンと空中に放り出し、サッと抜いたハンドガンでドガンと撃ち抜いた。
すげぇ、ヂィズニーランドのアトラクションより凄いかもしれない。
「な、何で銃なんか持っているのよ!? 犯罪よ!」
女の抗議は確かに正しい。けれど、ごめん。山田さんには正当な理屈は通用しないんだ。
「念のため携帯電話も調べさせてもらうわ」
と言い、取り出すとどういう方法を使ったのか、何故か本人認証をすり抜けて写真を選んで消している。
「週刊文冬……文冬砲担当記者
山田さんに不吉と言われるのも納得いかなさそうだけれど、文冬砲という時点で不吉極まりないし、『知りたい子』と呼べる名前も不吉だなあ。
「そ、そうよ。私に手を出すと、社が黙っていないんだからね!」
四里さんが強がるけれど、銃器を向けると大人しくなる。
「現在のここは治外法権。そして私は、時方君のためなら法を超える」
いや、誰もそんなこと頼んでいません。
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