嵐のヂィズニーランド
第1話 定番の遊園地?
そろそろ六月の声を聞こうというところ。
僕と武羅夫は、赤坂の料亭で縮こまって正座していた。
「ああ、何ということなんだ……」
と、悲しそうな顔をしているのは内閣総理大臣石田富士雄である。
「一か月が経過して世界を救える回数が一回になっているなんて……」
いきなり定例報告ということで呼び出されて、現状を説明した。
結果、やはりというべきか、首相は世界を救える回数が一回まで減っていることにショックを受けている。
「すみません、首相。何せ不測の事態が色々と起こってしまいまして」
武羅夫が頭を下げている。
そう、この一か月だけで、川神先輩との野球観戦、山田狂恋との件、負け組教とのトラブルと、連続して大事件が起きている。
で、何かあるごとに回数が減っていって、一時期五回まで増えていた世界を救える回数は、現在残り一回である。
返す返すも前回のカフェテリアのテレビ見落としは痛かったけれど、後の祭りだ。
「まあ、今更減ってしまったことに文句を言っても仕方ない。で、君と黒冥魔央はどこまで進んでいるんだ?」
「は? 進んでいる?」
「減った分は増やすしかないだろう。君も責任を感じて、魔央さんにアタックしなければダメだ」
あー、そうなるのね。
いや、まあ、しばらく手を繋いで歩いたりしていたけれど、その後はドタバタしすぎて何もないというのが現状だ。
「大学などいいから、デートをしてもう少し余裕をもってほしい」
首相が言った。いや、まあ、回数増やさないといけないのは事実だし、デートとかした方がいいのだろうけれど、「大学などいいから」というのはないんじゃないの?
首相が地図を開く。
「君達くらいの年齢の男女のデート先としてはやはりヂィズニーランドが定番だ」
「定番すぎますね。だけど」
「だけど、何だ? まさか遊園地が嫌いだとかいう、了見の狭い男なのかね、君は?」
「いや、そうじゃなくて、ヂィズニーランドってものすごく混みますよね? 何回も待たされると魔央がイライラしてしまってかえって逆効果では?」
魔央って自然の方が好きで、都会的なものが嫌いだ。そのうえ待たされると絶対に逆効果になると思われる。
「……あと、アトラクションも楽しむのかどうか分かりませんよ?」
魔央の楽しいツボと嫌なツボが分からないからね。怖い、こんなところは嫌だと思って、速攻世界を破壊してしまうかもしれない。
「うーむ……。中々難しいものだな。とはいえ、カップルたるもの遊園地にも行けないというのはあってはならない。貸し切り状態にしておくから、ヂィズニーランドに行きたまえ」
「そうですか……」
カップルたるもの遊園地にとまで言われるのもアレだけど、ヂィズニーランドに興味があるかと言われれば、もちろん、ある。
だから、行くことにしよう。
ということで、帰ってから魔央に説明した。
「ヂィズニーランドですか。面白そうですね」
反応は上々だ。あとはどういうアトラクションに乗りたいかを確認して……、と思ったところで電話が鳴った。まさか、先輩が!?
「何だ、武羅夫か? どうかしたのか?」
『悠、すまん』
「……何だよ、いきなり謝られる覚えはないんだけど」
『いや、実は……』
「?」
『聞いたわよ。貸し切りでヂィズニーランドに行くんですって?』
「げっ? 川神先輩?」
『げっ、は何よ? げっ、は。私も行ってもいいわよね?』
「そ、それはまあ、もちろん……」
えっ、何が起きたんだ?
『すまん……。怖くて話してしまった』
僕は絶句した。武羅夫、護衛隊長の任務を負っているはずなのに、率先して裏切ろうとは。
何で不測の事態を呼び込むようなことをするのかなぁ。
と、戻ったら、魔央は魔央で誰かと電話をしている。
「じゃあね」
と切って、にっこりと笑う。
「木房さんに言ったら、『負け組代表として是非ヂィズニーランドに行きたいであります!』って言っていたから誘っちゃった」
何ぃ!?
というか、ヂィズニーランドに行く時点で負け組返上だから!
こ、この展開だともしかして……、僕は恐る恐るユーチャーブを開いて、偵察のために置いてある山田狂恋のチャンネルを見た。
「……!」
そこには、『精神修養のため、近々ヂィズニーランドに行きます』という見たくもないタイトルが輝いていた。
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