第4話 負け組教

 さすがに他人を最上階まで上げるわけにはいかないということで、僕達が下に降りることにした。

 10分後、下に降りると確かに木房さんがいた。

 僕を見るなり。

「うわああああ! お許しくだされ~!!」

 と情けなく泣きついてきて、突然刃物を抜いた。

「うわあ!」

 山田狂恋の時に散々見せられているので、僕の反応も早くなってきた。すぐさま数メートル後ろに飛びのくけれど、木房さんはその場で座り込む。

「ワタクシ、この場で切腹してお詫びいたしまする~!」

 またそれかい!

 と、彼女は本当に刃物を腹に突き付けた!

 が、乾いた金属音とともに、刃物が真っ二つに折れてしまう。

 魔央が言っていた、負のオーラに跳ね返されてしまったらしい。

 何という強さだ。こんなオーラを向けられたら、また大変なことになりそうだけれど、木房さんにはそういうつもりはないらしい。ただ、ひたすら許してくだされと泣いている。

「ひとまず、何があったのか聞いてみようか」

 武羅夫が言う。それしかなさそうだ。


 近くの喫茶店でも連れていくのかと思いきや、何と武羅夫が連れて行ったのは赤坂の料亭だった。

「変に騒がれるとまずいからな」

 なるほど。

「で、何を謝っていたんだ?」

「ワタクシめのせいで、時方様がリア充と認定されてしまったのでございまする」

「リア充?」

「はい。ワタクシ、実は川神聖良先輩とお近づきになりたくて、近くを歩きながら先輩の写真をインヌタダラムに上げていたのでございます」

 先輩と近づきたい?

 中々とんでもない度胸の持ち主に見えるけど、先輩、一部のことを除けば、去年のミスコン準優勝とか単位はオールA取ったとか凄いスペックなのよね。更に自称聖女だし。

 しかし、それ自体、特に問題という気はしない。

「先輩から許可もらっているのならいいんじゃない?」

「いいえ、もらっておりません」

「なら、ダメだろ」

 何を考えているんだ、こいつは、と思ったらまた泣きだした。

「うぅぅ……」

「分かった、分かった。切腹はもういいから」

「そうしたら、頻繁に時方様が写っていたのでございまする」

「おい」

「それによって負け組教団の男共の怒りゲージが溜まっていたのでございますが、先日、有名ユーチャーバーの山田狂恋と先輩を交えていちゃついている画面を写真に撮ってしまいまして」

 あれはいちゃついていたんじゃない! マジで修羅場だったんだ!

 と言っても、通用しないんだろうな。

「しかも、黒冥魔央さんという可愛い許婚がいるに及び、負け組教団最高裁でこいつはリア充だという判決が出たのであります」

「逆恨みもいいところじゃないか。で、リア充認定されるとどうなるの?」

「人気のいない場所で、千人規模の丑の刻参りにターゲットとなり、大勢の呪いを受けながら死んでいくのであります」

「うわぁ……」

 呪いで死ぬというのはアレだけれど、さっきの夢をまんま目の前で実践されるとかなりのトラウマになることは間違いない。

「ということは、この手紙を出したのは木房さんの仲間の人達?」

 と、手紙を見せると頷いた。

「間違いありませぬ」

「行かないとどうなるの? 強制的に拉致されるの?」

 木房さんは強く頭を振った。

「そのようなことはしませぬ。負け組教は懲役三年を超えるような犯罪行為は決してしないのであります」

 三年以下ならするんかい。

「来ないなら本人の自宅の前でやるだけであります」

「うわぁ……」

 それは確かにやばい。自宅の前に千人とか何百人と集まって五寸釘やられたら、人生終了待ったなしだ。

 とはいえ、それだけの人数が道路を塞いでいたら、迷惑でしょ。警察とかに撤去されないわけ?

「撤去されません。負け組教は丁寧に警察に説明するのであります。我々はもっと静かなところでやりたいが、相手が承諾してくれない。また、我々は一切金品を求めていない。ただ呪うだけである。呪ったら帰る。これすら認められないと団員の中には人生に絶望する者が出てくるかもしれない。もっとシャレにならない犯罪を起こす可能性があるのだ、と。我々は最低限の治安のために活動しているのである、と。我々は騒音と不快感を募るがそれは一時的なことだけであり、我々がやることはただ呪うだけである。こう言えば警察は帰るのであります」

 開き直りもここまで行くとすごいな。

「我々は金もとりません。傷つけることはありません。ただ、呪うだけであります」

 傷つけないというけど、間違いなくトラウマになるぞ。

「そのターゲットに、時方様が選ばれたのであります」

「何とかならないの?」

「なりませぬ。ワタクシめのせいでこのようなことになり、慚愧に堪えませぬ」

「いいんじゃないですか? 一晩、丑の刻参りをされるだけなんですよね?」

 と、魔央が無責任なことを言う。

 ひょっとしたら、僕のことを何をしてもいいサンドバッグのような存在と認識しているのではないだろうか?

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