第3話 呪われた手紙?
その夜、僕は再び夢を見ていた。
そこには数千人の白装束の男女がいた。全員、頭にろうそくを立てているという見るも不気味な光景だ。
彼らの前には小さな台があり、そこに藁人形が置かれてある。
時刻は丑三つ時。ちょうど、今、僕が寝ている時間だろうか。
一同の列の前に壇があり、そこに一人の女が登る。
って、あれ、木房さんではないだろうか?
木房さんが叫ぶ。
「あな、羨ましき〇×~! この妬み晴らさずして、おくべきか!」
数千人が続く。
「〇×~! この妬み晴らさずして、おくべきか!」
「許すまじ! 呪われるべし!」
「許すまじ! 呪われるべし!」
「打てや~!」
木房さんの声とともに、数千人が鬼気迫る表情で一斉に五寸釘を打ち込んだ!
「うぎゃー!」
僕は飛び起きた。部屋は真っ暗だ。
「ど、どうしたんですか!? 悠さん?」
隣の部屋から魔央がびっくりしたような、心配するような声をかけてきた。
「い、いや、大丈夫……。とんでもない夢を見ただけだ……」
そう、とんでもない夢だった。仮に現実に、あんな場所に居合わせたら、恐怖のあまり失神すること間違いなしの代物である。
時計を見ると、午前三時。丑三つ時を少し過ぎたくらいであった。
「ごめん、魔央。起こしてしまったみたいで」
「……びっくりしました。本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫。ごめん、お休み」
僕はそう言って横になるけれど、先程の恐怖がありありと瞼に浮かんで、とても眠れそうにない。
……のだけど、大体こういう時、朝が近くなると眠ってしまうものなんだよね。そのまま寝坊するまでがセットということで。
次に時計を見ると九時半だった。
「やらかした!」
と思って、食堂に入ると魔央がコーヒーを飲んでいる。
「あれ……?」
「午前の講義、教授の浮気が発覚したそうで無しになりました」
「あ、そうなんだ……。というか、教授の浮気が理由なんて教えてくれるものなの?」
最低に恥ずかしくない? その教授。
「服部さんが教えてくれました。あと、悠さんに手紙が届いていますよ」
「手紙?」
魔央が差し出した手紙には、あたかも血で書いたかのような『時方悠様へ』という字のみが書かれてある。
「……私の経験的に、これは呪術に関係していそうな手紙ですね」
そう言って、魔央はズズーッとコーヒーを飲みほした。
「呪術……」
夢のことがある。というより、あの夢自体、ひょっとすると負け組教のような組織が見せていた可能性がある。
恐る恐る中を開く。
『時方悠様へ。
明後日午前三時、▽■村〇×まで来訪を願います』
まず一個ツッコミたい。
午前三時に人を呼び出すか!? 完全に殺すつもりだろ。
それに▽■村って名前すら聞いたことない場所だよ。どこの田舎なんだ?
魔央が携帯で調べ始めた。この子、こっちに来るまで携帯電話とか触ったこともなかったらしいけれど、だから新鮮に思っているのか毎日楽しそうに調べている。
「あ~、山梨県と埼玉県の県境近くにあるところですね」
めっちゃ山奥じゃん。午前三時にそんなところに呼び出すって、殺して山中に捨てるとか、山に埋めるとかそんな気満々じゃん。
「……誰かに恨まれているとか? 自覚はなくても、悠さんって天然に人の殺意を買っていそうですし」
何でや、何でそんなことを言われなあかんのや。
泣きたくなる。
「心当たりはないですか? 変な人に会ったとか」
それはもう、変な人というか間違いなくこいつのせいだとビンビンに指し示す人がいるよ。
「……目の前でいきなり自殺しようとしていた、やはり恨みを買っているのではないでしょうか?」
「魔央、君は僕を信じてくれないのかい?」
「だって、川神先輩とか山田さんとか、変わった女性に絡まれることが多いですし」
「あれは特別なの! 高校まであんなことはなかったから!」
「……負け組だと自覚すると負の感情をため込み、それを更に他人とも共有して飛躍的に増幅させることはあるらしいです。そういう人なのでしょうか?」
とんでもない奴だな。
やはり昨日黙って見ていて、自殺させた方が賢かったのだろうか?
「……そこまで行くと、多分負のオーラで縄も切ってしまうでしょうし、放置しておいても死ななかったかもしれません」
「負のオーラって恐ろしいんだね。とすると、昨日彼女が僕の前に出てきたのは、完全に僕に近づく動機があったからということなのか」
しかし、はっきり言うけど木房さんとは面識はないよ。もちろん、山田さんみたいに少し前は全然違う顔でしたということはあるかもしれないけど、背丈の小ささもあるからね。
「手紙には明後日とありますけど、今日か明日、話をしてみたらいいんじゃないですか?」
「でも、相手はこちらを殺すつもりだから、明後日まで出てこないんじゃないだろうか」
と一つ下からの直通電話が鳴った。
『おい、悠。木房梨子という小柄な女の子がおまえに会いに来たが、この場所教えたのか?』
……向こうから来たらしい。
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