第9話 二人は死をも乗り越える?

「……ハッ!」

 世界の滅亡と復活で放心状態だった山田さんが意識を取り戻した。

「何……? 一体、何があったの? この私の十八年間の人生で一度も味わったことがないこの恐怖、絶望……」

 あ、記憶も取り戻したのか。

 確かに顔は引きつっている。

「それが共に死ぬということです」

「……黒闇さん、貴方は……?」

「残念ながら山田さんが悠さんと共に死ぬことはありません。悠さんと共に死ぬことができるのは、私だけです。運命によって決められているのです」

「……」

 山田さんががっくりと膝から落ちた。うーむ、これはあれか。口では言っていたけど、いざ実際死んでみると考えていたものとは全然違うんだろうなぁ。「いっぺん、死んでみる?」を実現してみた感じなのね。

 しかし、さ。何なのこの差?

 僕の時は、銃は持ち出すわ、刃物で躍りかかるわ、やりたい放題なのに、魔央が一回世界を滅ぼしただけで借りてきた犬状態になるのは格差がありすぎないか?

 こう、もうちょっと男子にも優しい平等な作品というものを意識してほしいよ。

 ……。

 まあ、いいや。魔央のおかげで助かったわけだし。

「時方君は、私の全てではなかったというの……?」

 まだ言っているのか。勝手にそんなこと決められても困るよ。

「今はまだその時ではないということです」

 うん……?

 一体、君は何を言っているのだ? 山田さんも呆気に取られているぞ。

「今世で一つになれずとも、来世では一つになれるかもしれません。その思いが本当ならば!」

 えぇぇぇっ!?

 何でそこで山田さんを後押しするようなことを言うわけ!?

「そうか……、そうなのね! 輪廻した先の世界では、私と時方君が結ばれるのね。一万と二千年先、私達は結ばれるのだわ!」

 嫌だー!

 生まれ変わって山田さんの支配下に置かれるなんて嫌だー!

「そうと分かれば、こんな現世には用はないわ」

 山田さんは急に荷物をまとめだした。

「私はチベットで修行して、来世を確実なものにしてくるわ。それでは失礼!」

「は、はぁ……」

 終わった。僕の来世、終わった……。


「うん、終わったの?」

 放心状態でたたずんでいると、川神先輩が戻ってきた。魔央が笑って答える。

「はい。終わりました」

「それは何より。そこに転がっている犬はちゃんと連れ帰ってよね」

 犬? ああ、武羅夫のことか。ずっとお腹見せてひっくり返っているわけね。

 部屋を出て、もうやる気がなくなったのでマンションへと帰ることにした。そういえばエレベーターは修理されているのかな?

「山田さん、また戻ってくるのかなぁ」

「それは分かりません。来世で一つになれると確証できたら戻ってくるのではないでしょうか?」

 非情な一言をかけられる。

 ここまで転生に希望を見いだせないことって、あっていいのだろうか?

 まあ、魔央にとっては今世さえ乗り切れればいいんだろうけれど……。

「来世なら、僕が先輩や山田さん、誰と付き合っていても気にしないわけね?」

 いじけたように言うと、魔央は少し考える仕草をする。

「うーん、私の目の前でイチャイチャしていたら、ひょっとしたら世界を滅ぼしてしまうかもしれませんねぇ」

「……来世でも破壊神になるつもりなの?」

「それはないですけど、来世では私が、山田さんみたいになっているかも」

「えぇーっ、僕は魔央と山田さんに代わる代わる支配されるわけ?」

 そんなことがありうるのだろうか。

 ただ、山田さんの行動というのは中学生の時の一つの事件だけで説明するにはあまりにも理解不能な感情だし、ひょっとしたら前世から引き継いでいるということもあるのかもしれない。

 っと、世界が滅ぶ、ということで思い出したけれど、また一回滅ぼしてしまったなぁ。


 残りは……、あと二回か。

 うーん、そろそろストックを増やさないと、何か不測の事態が起きた時に対応しきれないかもしれない。一難去ってまた一難。

 僕の生活に平穏が訪れる日は来るんだろうか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る