第7話 先輩と山田さん
ヘリコプターで大学に着いた。
「山田狂恋は川神先輩の居場所を知っているのだろうか?」
「知っているも何も……」
先輩は、講義の時間以外は、下手をすると講義の時間ですらボイスターズサークルの部屋にいる。一応自宅通いをしているらしいが、深夜でも早朝でもいるらしく、部屋の主同然の状態だ。
山田さんも僕のことを調べていたのなら、当然先輩のことも知っているだろうし、そこにたどりつくのは自然な流れだ。
「あ、山田さんが」
たどりついたその時、まさに山田さんがサークルのある建物へと入って行った。急いで追いかけると、部屋の入り口で山田さんと先輩がにらみ合っていた。でも、先輩の顔が滅茶苦茶怖い。
「……ユニフォームも着ず、グッズも持たずに神聖なる部屋に入ってくるなんて、いい根性しているわね?」
先輩の言葉に対して山田さんは無言で銃を構える。それを見た武羅夫が叫んだ。
「山田! 銃刀法違反の現行犯だ!」
「控えなさい!」
「……へっ?」
川神先輩に一喝され、武羅夫は一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような顔をし、すぐにすごすごと引っ込んでしまった。
情けないけど、前回、球場でワンパンKOされてしまっているから仕方ない。
「あんたもユニフォームもグッズも持っていないわよね? 二人もあげるわけにはいかないわ」
あくまで部室に、ファン以外の者が入ることを拒む先輩。
「ここは神聖なる
と厳かに両手を広げる。
僕は改めて思い知った。先輩も山田さんに負けないくらいどうしようもない人間だということを。
「川神先輩、これが見えないの?」
完全に無視されていてイラッとしたらしい、山田さんが銃の撃鉄を派手に鳴らす。
「フッ、あたしを殺しても順位表は変わらないわ」
誰もそんなことを気にしていませんから。
「……先輩のことも調べているわ。時方君を在京の試合では全て駆り出し、試合中はビールから弁当に至るまで全て買わせ、負けた時にはストレスの発散相手とする、その傍若無人ぶり、いつか抹消しなければならないと思っていた」
「仮に登録抹消しても十日で帰ってこられるわ」
先輩、そういう意味じゃないって。
しかし、改めて先輩との関係を説明されると、僕の立場って本当惨めだな……。
「時方君は私の全て。それをアゴで使うなど、許せない」
「ほう。ちなみにどのくらい全てなの?」
「うん?」
先輩が急に攻め方を変えてきた。
「全てというからには貴方の細胞・ミトコンドリアレベルから全てが時方君のものだというわけ? 脳の中で勝手に思い込んでいるだけなんじゃないの?」
観念を細かくぶった切る先輩、こういう人っているよね~。子供なら何時何分何秒とか言い出すような奴。
「貴方を構成する原子や量子まで全て時方君のものだと言うの? そんなことはありえないわ。奇妙な脳が生み出す奇妙な電気信号のみがそう思っているだけよ」
反論できない山田さんに対して、先輩が勝ち誇った顔をしているけれど、それを言い出すと先輩のボイスターズ愛も電気信号のみということになるのでは。
怖いから言わないけどね!
少しの睨み合いの後。
「話はここまでね。貴女が生きている限り、時方君の歪みは酷くなる一方だわ。行動あるのみ!」
さすがの山田さんも、先輩を言いくるめるのはダメだったらしい。
「……というか、僕達はこの状況でどうすればいいんだ?」
武羅夫はひっくり返っている。お腹を見せて完全降伏している動物状態で全く頼りにならない。僕が割って入ると余計ややこしくなりそうだけど、このまま対決させてしまっていいものだろうか。
「あら、時方君と黒冥さんもいたのね」
気づいてなかったんかい。
「いいわ。恩に着なさい」
僕達に声をかける先輩。恩に着るって何のこと?
と、思った途端、先輩が消えた。
「……チッ!」
山田さんが銃を放つけど、そこにあるのは穴の開いたユニフォームのみ。
「よくも真木さんを……」
先輩がいつの間にか山田さんの後ろに回り込んでいた。
というか、相手の反応より早く回り込んでいたのだし、今、ユニフォーム囮にする意味なかったよね。
まさか去年のユニフォームを傷つけさせて、山田さんに新しいユニフォームを買わせようとかいう魂胆があったりするのではとか考えてしまう。
「しまった!」
とか何とか考えているうちに、先輩が後ろから山田さんを羽交い絞めにしてしまった。先輩が魔央に呼びかける。
「今よ、黒冥さん! 私ごと世界を滅ぼしなさい!」
はいぃ!?
何でそういう方向に。
というか、世界を滅ぼすのに、そんな「自分ごと貫け」みたいなこと、必要ないんですけど!?
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