第6話 渡る世界は偏見ばかり
取り込み中とはいえ、出ないわけにもいかないので電話を取る。
「もしもし……」
『あ、時方君~』
「今、取り込み中なので30分後折り返します」
『あっ、ちょっと!』
電話を切ったところで、二人の視線が僕に向かってくる。
何ですか、この僕が一番悪いかのような構図は……?
「誰からの電話?」
めっちゃ手慣れた手つきで銃を向けられる。
「え、えぇーっと、川神先輩」
「川神先輩? 女なのね?」
「い、いや、女だけど、山田さんが想像しているようなのではないから!」
タイプは違うけど、山田さん並に面倒な人だから。
ドガン!
ひぇっ! 頬のそばを爆風がかすめ、右耳から微かな痛みが。
「銃はダメだから! 銃は!」
明白な犯罪だぞ! 後で武羅夫とかが戻ってきたら、ややこしいことになるんだから!
「……」
「脇差ならいいってものじゃない!」
「時方君、考えを変えたわ」
「えっ、考えを変えた?」
「貴方はこの五年間で堕落してしまった。その現実を理解させるために、まず川神先輩を殺し、そのうえで」
キッときつい視線を魔央に向ける。
「黒闇さんも殺して、時方君をかつての私と同じ状態にしてあげる。そのうえで、二人の愛を新たに育むことにするわ」
何でそういう発想になるの!?
山田さんは言うなり、勝手に部屋の奥へ進み、窓を開いてベランダへと出た。
そのままバッと飛び降りる!?
「えぇっ!?」
驚いてばかりだけど、まさか山田さんが飛び降り自殺?
違いました。途中でパラシュートが開いて、ゆらゆらと降りています。
というか、ここ赤坂だぞ! こんなところでパラシュート開いて許されると思っているのか?
あと、何でパラシュート持っているんだよ! 特殊部隊の隊員かよ!?
あ、忘れていた。とりあえず川神先輩に連絡しないと。
「もしもし」
『何なのよ、いきなり? 来週なんだけど、またスイートで観戦したいんだけど』
こ、この人は……。
一度いい場所で観戦したものですっかり味を占めてしまったらしい。
「それは考えておきますが、先輩、気を付けてください」
『えっ、何々。何なの?』
「説明が難しいのですが、とんでもない人が先輩を殺しに行きますので」
『……何で? 誰かに恨まれる覚えはないんだけど』
そうだよね。先輩もとんでもない人だけど、それはそういう疑問が浮かぶのが正しいよね。でも、誰からも恨まれていないというのは、ちょっと自己を過大評価しすぎな気がするな~。
『時方君。まさか君の関係で、私が巻き添えを食らっているとか、そういうことではないわよね?』
「……大変遺憾ながら、その点が事実であることを認めますとともに、当庁では再発を防ぐべく職員の教育指導にあたりますとともに……」
『土曜日、ちゃんと席を取っておきなさいよ』
「……はい」
『ったく、聖女だと思って、厄介ごとを押し付けるんじゃないわよね』
と言って、ガチャッと切られた。
聖女だから押し付けたわけではないんだけど、というか、未だに先輩が聖女らしいということを信じられないんだけど、もしかしたら川神先輩は頼りになるんだろうか。
ひょっとしたら浄化の光とかで山田さんを浄化してくれたりするとか……?
と思ったら、外がうるさくなってきた。
再度ベランダから上を見上げると、おぉー、ヘリコプターだ。
魔央が武羅夫にエレベーターを破壊されたことを伝えていたらしい。
屋上がヘリポートにもなっていたらしく、武羅夫他数人の人間が降りてくる。
「悠、無事か! どうやらバロン・サイゴウに関しては完全にダミーだったらしい」
「うん。そうみたいだね……」
その間に、このマンション内では二回発砲があったよ。
「山田狂恋はどこに行った?」
「……急に方針転換して、川神先輩のところに向かった。今のうちに指名手配でもして、何とか防げないだろうか?」
既に僕に対する殺人未遂が三回と、銃刀法違反まである。国をあげて守ると言っているのだから、しっかり守ってもらわないと。
「……一応かけあってみる」
「かけあってみるじゃないよ! 銃持っているんだよ? 二発発砲していったぞ!」
「悠、ここで発砲があったということは公にしたくないんだ」
「何で?」
「事実を公表すると、何故こんなところがあるのかという理由を説明しなければいけない。魔央ちゃんの存在を公にすることは非常にまずい」
「そ、それはそうかもしれないが……」
「だから指名手配をするわけにはいかない。極秘裏に始末するしかない」
「し、始末……?」
「安心しろ。おまえの不貞行為が明るみになることはない。魔央ちゃんのために、我々が山田狂恋を始末する」
ニヤッと笑って、まるでフラグが立った戦場に向かう兵士のごとく、武羅夫はヘリコプターに再度乗り込んだ。
不貞行為って、何で僕が悪いかのように言われなければいけないんだ?
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