第3話 第二の行動
※山田狂子の名前を山田狂恋に変更しました。読みは同じキョウコです。
山田狂恋から逃げた僕は、どうにか中国語の講義に入り込んだ。
「どうしたんだ?」
武羅夫が呑気な顔をして聞いてくる。お前ね、僕達の警護役じゃなかったのか?
まあ、先に行かせたのが僕であるのも確かなのだが。
「酷い目に遭った。後で聞いてくれ」
「……ああ、分かった」
休憩時間、僕は武羅夫に先程のことを説明した。
「多分中学だと思うんだけど、山田狂恋という子を覚えていないか?」
「いやー、覚えていないな。そんな珍しい名前だったらすぐに覚えるわなぁ」
確かに。というか、僕の周りって魔央、聖良、狂恋と変わった名前が多すぎない?
「ちょっと文科省に尋ねてみるか」
武羅夫が気楽な様子に電話をかける。
「内閣府特別警護チーム伊賀忍者隊の服部だけど」
何という肩書だ。
「おっけー、調べたら送ってくれ」
と言って、電話を切った。何か諜報部隊でも動かそうというのか?
「いや、卒業文集を調べてもらう」
「……武羅夫、それ、別に文科省じゃなくて自宅でも良くない?」
僕の突っ込みは無視して、武羅夫は別のことを調べている。
「これが山田狂恋のユーチャーブチャンネルか」
確かにユーチャーブチャンネルがあった。登録者数は……160万人? 滅茶苦茶凄いな。一体どんな内容の発信をしているんだ。
最新のものは……、『ご報告。彼を殺して私も死にます。今までありがとうございました』。
「……」
「ふぅむ、狂おしいまでの一方的かつ熱烈な愛を主張する特異なチャンネルで、日本のみならず韓国や台湾の一部の腐女子に熱狂的な人気があると説明されているな。ブーブルが規制されている中国でもこっそり登録している者がいるらしい、と。おっ、メールが来た」
武羅夫の携帯に結果が届いたらしい。
「こいつみたいだな。見覚えある?」
と見せてきた写真は、先程山田さんに見せられた写真だ。
「元々は山田響子という名前だったみたいだな。二年前に変更したらしい」
「何で名前に『狂』なんて文字が認められたんだ?」
そんなことを言いだすと魔央はどうなるんだという話だけれど、こう、何というか好き放題名前を変えたらいけないと思うんだ。
「ユーチャーブチャンネルの実績に加えて、韓国系の組織力もあって家庭裁判所をねじ伏せたらしい」
うぉぉ、確かにアメリカでも韓国系のゴリ押しは凄いらしいもんね。
「しかし、ユーチャーブに堂々と、僕を殺して自分も死ぬと動画を載せているんだが、これってブーブルの規約違反なんじゃないのか?」
「ふむ。一応、ブーブルに報告はしておくが、こういうキャラだからと認められているのかもしれないな。恐らく、今まで犯罪はしていないのだろうし。しかし、この最新の動画にしても2時間半もあるぞ。これだけ長いと見る気がなくなるな」
「いじめられていた自分を助けてくれたと言っていたけれど……」
「覚えていないのか?」
「いやー、覚えていない。それすら誤解なんじゃないかという気もする」
死刑囚等が「冤罪だ」と主張している場合なんかが典型らしいけれど、実は本人が嘘を言っていないケースもあるらしい。主張しているうちに脳が記憶を塗り替えてしまって、記憶そのものが変わってしまうことがあるらしいんだよね。
彼女の場合も、あれだけ思い込みが激しいのだし、僕が一言、二言くらい何か言ったことを勝手に勘違いしているのではないかと思うのだけれど……
「そのあたりは俺が知る由もないが、山田狂恋がいると不測の事態が起きかねないことは確かだ。警備班全体で情報を共有しておこう」
武羅夫は手際よく電話連絡を繰り返している。前回、先輩に一撃で倒されたけれど、こういうところでは頼りになるなぁ。
「……何か怪しい動きがあれば連絡を。何っ!?」
「えっ、どうしたの?」
「……分かった。山田狂恋がコンタクトを取る前に何とか塞ぐようにしておいてくれ。ただ、くれぐれも彼に敵対的な行動をとるんじゃないぞ。あと、ユーチャーブチャンネルをチェックしておいてほしい」
慌てたような顔で電話を切った。
「何があったんだ?」
「今日の朝夜新聞と読買新聞の夕刊にⅤ14型トラクターに関する広告が出されたらしい。これは世界的暗殺者バロン・サイゴウとのコンタクト方法だ」
「えぇーっ!?」
「普通の女子大学生に彼を雇う金はないはずだが、山田狂恋くらい登録者数のいる配信者なら持っているかもしれない。彼がおまえの暗殺を引き受けてしまった場合、残念ながらお前を救う方法はない。この数日が勝負になるな。日本中の公安組織を動かして、バロン・サイゴウの動向をチェックしなければならない」
「うわぁ、警護が更に多くなるのか」
「いや、繰り返しになるが彼に狙われたら、どれだけ警護していてもお前は終わりだ。だから警護は増やさない。彼と山田の接触を何とか止める方向で頑張らせる」
何だか大事になってきた。大丈夫なのかなぁ。
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