第12話 恐怖の野球観戦①
そんなこんなで二日が無事に経過した。
この間、外で手取り足取り一緒にいたせいか、救える回数は二回増えて計五回まで救えるようになった。
その過程で分かったこととして、回数が増えるまでの経験値?みたいなものは上がっていくにつれてより多く必要になるということだ。
現在、僕は1600まで上がっていて、ここまでで五回増えている。ただ、次が3200、その次が6400となっていくわけで、更に五回ストックを増やすためには51200まで到達しなければならない。これは中々遠い道のりだ。
いや、まあ、もちろん手をつなぐ以上のことをすれば経験値量も増えていくのかもしれないけれど。
閑話休題。
ひとまず、初の週末ということで、僕達は朝からのんびりテレビを見ている。
あ、ただ、テレビを見るといっても番組は慎重に選ばないといけない。煽情的な番組に煽られてしまう可能性を考えれば、とてもではないがニュースとか見ていられない。バラエティ番組も理不尽なものが多いから見ていられない。
ということで、大体見るものはというと音楽番組か教育番組、あとはパターンが読める時代劇くらいになる。
携帯にメールが入った。先輩からだ。今日の横浜での試合観戦の確認だろう。先輩に逆らうことはできないし、僕としても少し気を休めるところが欲しいというのも正直なところだ。
「魔央、僕、これから川神先輩と野球観戦に行くから、午後は武羅夫とトレーニングでもしておいてもらえる?」
「あ、そうなんですね。うーん」
魔央は唇に指をあてて考えている。
「私も見に行っていいでしょうか?」
えっ……?
僕の頭はその瞬間からフル回転を始めた。
魔央が野球を見る。これは何を意味するだろう。
①贔屓チームが試合に勝つ
先輩と僕が揃って喜ぶ。もし、魔央がジェラシーを感じたら、世界が滅ぶ。
②贔屓チームが試合に負ける
僕達が揃って落ち込む。魔央もがっかりして、最悪世界が滅ぶ。
これはまずい。勝っても負けても世界の危機だ。避けるためには引き分けしかないかもしれないが、そもそもそれ以前に野球に限らずスポーツというのはストレスの塊のようなところがある。
チャンスで打てない、誰でも決められるシュートを外す⇒「このアホンダラ、世界と一緒に死んでしまえ」みたいなことになり、世界が滅ぶ。
まずい。
非常にまずい。
試合展開によっては、世界が複数回軽く滅んでしまう可能性がある。
とはいえ。
③連れていかない
魔央が孤立感を感じる。最悪世界が滅ぶ。
連れていかないという選択肢すら許されない。
間違いない。こういう状況を一般的に「詰んだ」と言う。
これから野球観戦をする度、世界が滅ぶことになってしまっては経験値的に辛いことから大変なことになる。
とはいえ、今日、この時点で今から解決策を見つけることは難しい。
「……そうだね。一回、一緒に行ってみようか」
僕は引き受けるとすぐに武羅夫を呼んだ。説明をすると、武羅夫も途方に暮れた顔をする。
「せっかく五回に増えたのに、一回減ってしまうのか」
「一回で済めばいいんだけど、ね……。とにかく五回まで増えたから多少の余裕はある。今日は想定していなかったのだからもう諦めるしかない。今後、回避できるような策を考えてくれないか?」
「考えてくれと言われてもなぁ。首相に頼んで、両チームに圧力をかけてつまらない試合にしてしまうとか」
なるほど。それは名案だ。つまらない試合、例えばダラダラと四球連発になるけれど点が入らないという展開になると途中で帰りたくなる。それで0-0の引き分けとかなら「こんなつまらない試合、二度と見ねえよ!」となるだろう。
「いや、良くないよ。それって八百長じゃないか」
首相が野球の試合結果に圧力をかけていたなんてことになったら、大変なことになる。政権が吹っ飛ぶどころでは済まないかもしれない。
「しかし、世界がかかっているのだから、野球の一試合くらい仕方ないんじゃないか?」
「……その意見を川神先輩に言うのはやめてね」
野球の一試合くらい、なんて言ってしまった途端、僕らは血を見ることになる。
結局、この時点では明確な回答が見つからないまま、僕達は試合観戦に出発することになった。
ああ、一回、何回世界が滅ぶんだろう。
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