第11話 新しい生活⑥
10分後、僕達は大学のカフェテリアの一角に座っていた。周囲はSPに完全護衛、あからさまに怪しいけれど仕方がない。
僕と武羅夫が座り、呼び出した学長がその隣に。魔央もいるんだけれど、視界に映らないくらいに小さくなっている。
「恥ずかしくていられないという思いが、そのまま世界がなくなればこんな思いをせずに済むという超斜め上の方向に進んだのだろうけれど」
「も、申し訳ありません……」
「過ぎたことは仕方ない。ただ、この様子だと、ちょっとおおっぴらにはできないよねぇ」
相手側に悪意はなくても、魔央がどう受け止めるか分からない。となると、相手に言わせることはできない。どれだけ理不尽であったとしても、ここでは魔央がどう受け止めるか、それが全ての世界なのだ。
「確かにその可能性は盲点だった」
理事長も腕組みをして弱っている。
「……風呂場も片付けておいて良かったですよ」
昨日の自室の風呂場の怪しいグッズのことを思い出す。あれも、初見だと変な方向に想像して世界を真っ二つに割るくらいしたかもしれない。
「風呂場?」
「あ、こっちの話。とりあえず結婚式については延期にした方がいいと思います」
「しかし、首相は『予算として計上した』と」
知らんがな。ほんまに知らんがな、そんなこと。
というか、どこでどんな結婚式やるかも聞いていないぞ。
無意味に派手な結婚式をやって、『公費の無駄遣い!』とか叩かれたりするのはまっぴらごめんだ。ご免ですめばいいけれど、それで魔央が嫌になって世界を一回滅ぼしたらどうするつもりなんだ。
一回で思い出したけれど、ストックがまた一回に戻ってしまった。何とか仲良くなってストックを増やさないといけないな。
「ひとまず婚約レベルで周囲には発表しておこう。もちろん、魔央のことについては門外不出ということで。あとは黒冥家自体がそうなのだし、魔央についてはとんでもない呪術師としておけば、誰も近づいてこないかも」
「いや、大学新聞の馬鹿記者とかが『自分には知る権利がある』とか言って近づいてくるぞ。世界平和のためだし消すか?」
「いや、消すのはさすがに……。ううむ。参ったな……」
外を出歩かなければいけないのに、外で人と接触すると不測の事態が起こりかねないというこの状況、ひょっとしたら詰んでいるのではないだろうか。
と、武羅夫がポンと手を叩いた。
「そうだ。いいことを思いついた。ちょっと待っていろ」
そう言うなり、武羅夫はドロンと消えた。いや、ドロンと消えたというのは大げさで実際には走っているだけだけれど、まあ、とにかくかなりの勢いで走っている。
何か妙案でも考えたのだろうか。しかし、あいつの考えることをどこまでアテにしていいものやら。
30分ほどして、武羅夫がダッシュで戻ってきた。
「これだ。これを使おう」
と取り出したものは、謎の伊達メガネとイヤホン。
「何だ、これは?」
「これは周りがぼやけて見えないメガネと、おなじみのイヤホンだ。これを魔央ちゃんにつけてもらう。そうすれば、周りの様子が分からなくなる」
ああ、周りが全く見えなくなって、周りの言うことも聞こえなくなるわけね。
「人込みの多いところや休憩時間には、これをつけよう。で、その間はおまえが手取り足取りして移動するわけだ」
えっ、僕がやるの?
「そうすれば、親密度もあがってストックが増える。ウィンウィンと言うわけだ」
「なるほど。確かに妙案だ」
理事長も納得したようで頷いている。
うーん、まあ、確かに周りの様子を分からなくするというのは一つの手ではあるかもしれない。
「ということで、魔央ちゃん、これをつけてもらっていい?」
「わ、分かりました」
素直に従い、眼鏡とイヤホンをする。
「どう、周りが見える?」
小型マイクで話しかける。どうやらイヤホンに直接通じるらしい。
「見えないです。音も聞こえなくなりました」
「よし、これなら恥ずかしく思う必要もないだろう。悠、あとはおまえに任せた。一旦出直しを図ろう。まずは駐車場まで移動だ」
と武羅夫から、マイクを渡される。
仕方ないな。魔央の手をとって、立たせる。
と、ビロリーンと音が鳴った。
『好感度100をクリアしましたので、世界を救える回数が一回増えました。次回世界を救う回数が増えるにはあと100の好感度が必要です』
おお、先程減った分が回復した。
でも、これ、手をとった=つないだだけで50増えたってこと? 僕の好感度上昇も随分とちゃちいというか、ちょろい感じがするんだけれど……。
考えていても仕方がないか。とにかく増えたんだし、手をつないだまま駐車場へと進む。ちらっと見た学生達が僕を指さしてクスクスと笑っていて、これはかなり気恥ずかしい。ただ、幸い魔央には本当に見えていないようだ。
『好感度200をクリアしましたので、世界を救える回数が一回増えました。次回世界を救う回数が増えるにはあと200の好感度が必要です』
おお、五分歩いているとまた増えた。
って、手を繋いで5分歩くと100増えるって、僕の好感度、やっぱりちょろくない?
何か情けないんだけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます