第7話 新しい生活②

 理事長室を出た僕と魔央は、護衛に囲まれたままリムジンに乗り込んだ。

 デカい。ドラマでしか見たことないような縦長の車にいると、どうしても緊張してきてしまう。

「えーっと……」

「……?」

 魔央に話しかけようとして、どう呼びかけたらいいものか迷ってしまった。

 許婚っていう扱いみたいだから、”魔央”でもいいのかもしれないけれど、初対面に等しい相手に馴れ馴れしすぎるんじゃないかとも思ってしまう。

 魔央はニコッと笑って、「何でしょうか?」と問いかけてきた。

「いや、どう呼ぼうと思って。魔央さんでいい?」

「はい。私も悠さんでいいですか?」

「いいよ」

 やはり、最初はそのくらいからスタートすべきだろう。今後、半蔵や川神先輩のいるところでお互いが”魔央”、”悠”と呼び合っているとあらぬ誤解を招いてしまいそうだ。

 既に許婚関係らしいから、誤解も何もないと言われればそれまでだけれどさ。

「で、これからマンションに行くのか?」

 当然のようにリムジンに乗り込んでいる服部武羅夫に尋ねる。

「ああ。おまえと魔央ちゃんは最上階に。俺達は一つ下の53階に住むことになる」

 53階が一つ下ということは、54階のタワーマンションということか。凄いところに住むんだなぁ。地震とか起きたらどうなるんだろう。

 頼りにならないが、武羅夫に確認してみる。

「その点は心配ない。53階には半年分の食料・弾薬を備蓄してある」

「食料は分かるが、弾薬は何のために必要なんだ?」

「もちろん、良からぬ連中が危害を加えに来るかもしれないからな」

「……まあ、そういうことについては任せるよ」

「もちろん任せておけ、と言いたいところだが、最上階と53階までは特別エレベーターで移動することになる。つまり、おいそれと他人を乗せてはいけないということだ。もちろん、フーバーイーツやアヌゾンなどを頼むのは論外だ」

 なるほどね。特別エレベーターの存在を明らかにしてはいけないということか。

「ご飯などについては、53階に中華、フレンチ、和と料理の鉄人を三人用意している。食いたいものがあれば、上から指示してくれればいい」

 おぉ、それは何だかすごい待遇だ。

 ご飯でつられるのは情けないかもしれないけれど、ご飯食べ放題、タワマンに税金で住めるというのは結構凄い。でも、もし、世間に知られたらどこかの皇族の人みたいに激しいバッシングを受けてしまうのだろうか。


 30分後、僕達のリムジンは赤坂のホテルの地下駐車場へと入って行った。武羅夫の先導で僕と魔央は更に地下へと降りていく。

「この奥の部屋には、俺達SPとおまえ、魔央ちゃんの顔認証でしか開かない。他の連中を通したりしたら警報が鳴って、内閣官房と警視庁に通報される」

 三人で通って、奥のエレベーターに乗り込んだ。確かに物凄いスピードで上昇している。30秒程度で54階まで着いた。

「これが鍵だ。俺は53階にいるから、何かあったら上の電話を取ってもらえればいい。直通電話だ」

「分かった」

 鍵を受け取ると、武羅夫は下に降りていった。

 いや、しかし。

 最上階ということで、一階と比較するともちろん大分狭いけれども、それでもホテルのワンフロアそのままなんだから、すごい広さだ。ここに二人で住むって、ものすごいことじゃない?

 そうした期待はすぐに半分裏切られる。

 というのも、フロアの半分くらいには何かの宗教施設のようなものやら神社やら教会のようなものが作られてあった。これも、封印のために必要ということなのかな?

 さて、問題の僕達の部屋だが、玄関に入った途端にまず目についたのはトレッドミルやらトレーニング器具が置いてある部屋だった。運動不足にならないように置かれているということなのだろうか。

「色々あるんですねぇ」

 魔央はトレーニング器具に興味を持って色々眺めている。その間、僕は奥へと向かった。

 宴会場のような広い食堂がある。これだけ広くする必要ある? みんなで宴会なんて機会はないんだよね?

 それぞれの部屋も30畳くらいある。何だか落ち着かないだろうなぁ。それと別にダブルベッド付きの寝室があったけれど……、いや、さすがにいきなりダブルベッドはちょっと……。

 廊下には矢印があって大浴場ってある。宴会場も広かっただけに、浴場も何十人と入れるようなところなんだろうか?

 中に入ってみて、予想は半分当たり、半分は外れた。

 広いのは間違いない。しかし、一般的にイメージするような大浴場ではなかった。透明の椅子やら変なマットが置かれてある。ちらっと説明を見ると『高級ソープランド御用達!』とか書いてあり、説明書みたいなものがある。

 ああ、そういえば首相が三話くらい前に「ラブホテルを参考に」とか言っていたな。それがこの辺りの道具なんだろうな。

 向こうの立場からしてみると、早く愛を育んでほしいということかもしれないが、それはこちらの知ったことではない。さしあたり今の僕と魔央にはこの辺の道具は不要だろうから撤去しよう。

 いつか、使う機会……あるんだろうか?

 とりあえず変なミラーボールやら蛍光ライトも含めてひとまず自分の部屋にそそくさと持っていき、どうにか普通の広い風呂にした。

 当面の問題は、寝るところをどうするか、かな。

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