第6話 新しい生活①

 話が逸れてしまって、世界も余分に一回滅んでしまったけれど、とにかく、僕達が死ぬということは非常に危険ということだ。

 とはいえ、タワーマンションの最上階を独占というのはどうなんだろう。

 でも、外を出歩くと危険ということは、三年間タワーマンションの最上階で二人だけで生活していろということなんだろうか?

 そ、それは中々刺激的な生活かもしれない……

「最上階にずっと立て籠もるようなことになるんですか?」

 僕の質問に、何故か母が答える。

「それができれば一番いいんだけれど、そういうわけにもいかないの。何故かというと、魔央さんが同じところにずっといると、そこに破壊神のパワーが溜まってしまってひずみのようなものが生まれるらしいわ。これを出さないために、定期的に霊媒師や神官のサポートを受ける必要があるのよ」

「霊媒師や神官……」

 何というか、ものすごく怪しい響きではある。

「おまえが思ったような怪しい連中ではないわ。あと、何だかんだと教会や神社などのパワースポットも好影響を与えるみたいだから、そういうところにも行った方がいい。結局、大学にも行った方がいいということになるの」

 そうか、大学には行った方がいいのか。

 僕もどちらかというと大学には行きたいし、これは一応朗報ではある。ただ、できるだけ長い時間を魔央と一緒にいた方がいいから、彼女が外出する時間はどうすべきか。

「何を言っているんだい。お前と同じ大学に行くんだよ」

「えっ? そうなの?」

 というか、僕が行っている大学、確かキリスト教系じゃなかったっけ?

 そんなところによく分からない破壊神が行っても大丈夫なの?

「ことは世界に関わっているんだからね、キリストも仏も神もないよ」

 それは確かに……。

 ということは、魔央と同じ大学に行くことになるのか。

 うん、ちょっと待てよ。

 ということは、川神先輩と魔央が鉢合わせになる?

 うわぁ。それは面倒な話になりそうだ。

「それでは、君達を住居へと案内……と行きたいところだが、先に護衛の面々と顔合わせしておこう」

 首相が指をパチンと鳴らす。

 護衛らしい盾を持った人達が大勢入ってきた。

 どうやら彼らに囲まれて移動することになるらしい。ドラマやマンガでは時々見かけるけれど、毎日24時間彼らに囲まれて生活するとなると、かなりストレスが溜まりそうだなぁ。

 首相が僕の考えに気づいたのかニヤニヤと笑う。

「だが、安心するがいい。彼らは普段、少し離れたところから君達のことを見守ることになる」

 なるほど。

 それは安心ではあるけれど、逆に至近距離で何かあった時に不安はあるかもね。

「とはいえ、近い距離に君達の護衛がいないのは不安だ。そこで日本らしく忍者を護衛につけることにした」

「忍者!? 忍者なんているんですか?」

「ああ、しかも、その男は君もよく知っているはずの男だ」

「えっ、もしかして服部武羅夫ですか?」

 僕があっさり答えると、首相が唖然となった。と同時に天井の方からドタンと何かが倒れるような音がした。

「……何で分かるんだよ!?」

 と天井の一角が開いて、顔を出してきたのは、中学からずっと同じクラスで大学の学部まで一緒、いわゆる腐れ縁とも言える服部武羅夫はっとりたらおだ。


 ブツブツ言いながら、武羅夫は部屋に降りてきた。忍者と言っているが、さすがに普通の服装だ。町中を忍者服で歩いていたら、目立ってこの上ないから、そんな奇特な選択をしなかったことだけはありがたい。

「いや、だって、高校くらいの時に自分で言っていただろ? 『俺は伊賀忍者と甲賀忍者の両方の末裔だ』って。その時は訳の分からんことを言うなぁと思っていたけれど」

 僕が知っていて、忍者となると一応思いつくのはこいつくらいしかいなくなる。苗字が服部だから、どうしても服部半蔵はっとりはんぞうを連想してしまうし、武羅夫というのも甲賀の有名な一族と同じだしね。

「……フッ。さすがに世界が狙う男。ふとした情報まで記憶しているのはさすがだ」

「……どうもありがとう(棒読み)」

 大丈夫なのか? 日本政府。

 こんな奴を護衛に選んでしまって。

 あ、ただ、こいつが腐れ縁なのはもしかして。

「気づいたか? そうだ。封印の刻印の相方を守るべく、中学の時から警護役として派遣されたのだ。幸い歳も同じだったからな」

 なるほど。そういうことだったのか。

 中学の時に騎馬戦で派手に帽子を取られた挙句、落とされて全治三か月の怪我をしたことを思い出した。警護役ならあれはどうなんだと思うが、ここは黙っておいてあげるのが大人というものなのだろう。

「だから、高校も大学もおまえの行くところに受験無しでフリーパスだった、というわけだ」

 そうだよな。

 武羅夫はあまり成績が良くなかったし、何で高校・大学と僕と同じところに合格できたんだろうと実は少し不思議だった(もちろん、嬉しかったのは事実だけれど)。そういう理由で免除されていたわけね。

 でも、何で護衛をされる側でなく、護衛をする側が特別待遇受けるんだよ。普通、護衛する側って相当に優秀で、それこそされる側の行きそうな大学くらいチャチャッと受かってしまうものなんじゃないのか?

 こんな奴が護衛の筆頭で大丈夫なのだろうか。

 正直、不安でしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る