第5話 突然の再会⑤

 世界の滅亡を一度目の当たりにしてしまった以上、僕としては文句が言えなくなる。

「で、どうしたらいいんでしょうか?」

「うむ。既に世界を救える回数は二回になってしまったので、なるべく彼女が世界の滅亡を希望しないようにしなければいけない」

「えーっと、魔央さんは、そういうのを希望しているの?」

 僕の質問に、魔央は首を激しく振った。

「とんでもありません! ただ、何かのきっかけでそんなことを思ってしまうかもしれないというのはあります……」

 段々、声が小さくなっていく。

 確かに色々なニュースが世間を騒がせたりしている。

 中には「何て酷い世界なんだ」と思うようなニュースもあるはある。こんな世界はなくなってしまえばいいのにと思ってしまうことだってあるかもしれない。

 それに東京には色々な人がいる。いい人もいるけれど、とんでもない人もいるから、「こんな奴死んでしまえばいいのに」と思うことだってあるかもしれない。

 悪人でなかったとしても、自分の目の前で大成功された妬み、あるいは自分が大失敗した絶望で世界の破滅を願う意識が出てくるかもしれない。

「そういうのでも反応してしまう?」

「……かもしれません」

 それはまずい。

 あと二回なんて絶望的に少ない回数じゃないか。

「だから、君達のラブラブ度がアップすれば、救える回数が増える」

 頭を抱えた僕に、首相が励ますように言う。

 ラブラブ度、ねぇ。

「だから日本政府では君達の愛の巣を用意している」

「愛の巣?」

「そうだ。南青山のタワーマンションの最上階を買取り、最近人気のラブホテルなどを参考に丸々改造したものを用意した」

 そう言って、首相は「どやぁ」という顔をした。

 僕と魔央はお互い顔を見合わせた。

「……そ、そんなところに住むんですか?」

「世界の存続にかかわることだ。もちろん、家賃などは心配しなくていいぞ」

 いや、家賃の心配はさすがにしていないけれど。

 というか、タワマンの最上階に勝手に住まわせて、家賃は自分で払えなんて言ったら、その時点で僕が「こんな世界滅んでしまえ」と思うよ。

「更に一つ下の階にはSPが待機しているから、安全性という面でも問題ない」

「SPですか……。ということは、今後、僕達が生活するうえでもSPの警護がつくわけですね?」

「もちろん。君達に万一のことがあれば世界滅亡まで一直線だからな」

 そうか。確かに僕が死んだら、魔央が邪念に支配された時点で「世界よ、さようなら」か。あれ、でも、魔央が死んだらどうなるんだろう? もちろん死んでもらいたくはないけれど、もし、死んだ場合にはそういう心配をしなくていいということになったりしないのだろうか?

「……どうなんでしょう? 首相」

 僕は小声で首相に尋ねた。

「……」

 首相は分からないらしい。電話をしている。

「私だ。時方君の質問で、黒冥魔央が死んだ場合に世界はどうなるのか、尋ねている」

「えっ!?」

 魔央がびっくりした声をあげて、僕を見た。

 首相! 本人の前で言えないから、小声で聞いたんですよ! 何で魔央に聞こえるように言うんですか!?

「そ、そうですよね……。やっぱり、そういう風に考えてしまいますよね」

 平静さを装おうとしているけれど、明らかにショックを受けている。

「ご、ごめん。そんなことを望んでいるわけじゃなくて、ただ、一瞬知的好奇心みたいな感じで考えてしまって……」

 僕は言い訳をするけれど、それと同時に、地球はギャグマンガのように真っ二つに割れた。

 分裂した場所から重力に耐えきれなくなり、ボロボロとマントルの方へと沈んでいく。地球はどんどん収縮していき、最終的には月と同レベルの石と化す。


 世界は滅亡した。


『世界を救いますか?』

『▶はい いいえ』


「首相! いい加減にしてくださいよ! あと一回になってしまったじゃないですか!」

「君が変なことを質問してくるからだろう!?」

 僕の文句に首相も逆ギレする。

「……」

「ご、ごめんなさい!」

 が、魔央のジト目視線に気づくと、僕と首相は揃って土下座した。

「……子供の頃に聞いたことがあります。私が死ねば、やはり世界は滅ぶらしいって」

「そ、そうなんだ」

 それはそうだよな。魔央が死んだら世界が平和になるのなら、誰かが「殺そう」って言いだしそうだ。

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