第4話 突然の再会④
僕、時方悠は、十年前の田舎での羽子板で封印の刻印を押し合ったことにより、黒冥魔央と許婚の関係になった。
らしいのだけれど……。
「でも、本当なんですかね? 僕、ドッキリか何かで騙されているんじゃないですか?」
端的に言うと、魔央は非常に好みのタイプである。
だから、彼女と一緒に過ごせるというような話は嬉しい。
しかし、中身が中身である。色々考えてみても、やはり怪しいというしかない。
「驚くのは分かる。しかし、本当のことなのだ」
「そんなことを言われても、首相が来るなんていうのも変ですし、そもそも破壊神の生まれ変わりなんて信じられます? ねえ」
僕は魔央の方を向いた。彼女は俯き加減で少し震えている。
「大体、破壊神の生まれ変わりとかそういう世界の運命が関わるようなスタンプなら、羽子板中の子供に渡したりしないよね?」
「……はい」
「それでポンポン押したから、はい、一緒に過ごしてくださいというのもないんじゃないでしょうか」
話しているうちに少し感情的になってしまった。それにビビった母が、蒼ざめた顔で叫ぶ。
「悠! まさかおまえ、嫌だとか言うんじゃないだろうね?」
「嫌と言うわけじゃないけれど、現実味がなさすぎる話だし」
僕は改めて魔央を見た。愛らしいルックスに、ほっそりとした手足。
「この子が破壊神の生まれ変わりなんて言われても、信じろというのが無理じゃない? 実際に破壊するところを見たら別だけど」
「おまえ、何てことを言うんだい!」
母は激怒したけれど、ここまで来るとこちらも引き下がるつもりはない。
「さっきの首相の話だと、僕が三回救えるらしいじゃないか。一度滅ぼしてみて、それで救ったら信用するよ」
「な、な、何という恐れ知らずなことを……」
母がわなわなと震えて、その場に崩れ落ちる。自分の母だけど、こんなに迷信深い性格をしていたのだろうかと呆れずにはいられない。
「…分かりました」
魔央が震える声でうなずいて、その場で「世界が滅びますように」とつぶやいた。首相が「ああ!」と悲鳴をあげて、頭を抱えた。
「……?」
特に何も起こらない。
そう思った瞬間。
宇宙を司る方程式が全て形を失った。
ビッグバン以来、拡大しつづけてきた宇宙は、方程式を失った結果、今度は急激に縮小していく。その縮小に伴い、地球もまた原始の点目掛けて収束していく。
「うわっ?」
唐突に重みを感じた。全てが収束している以上、当然、地球もまたビッグバンへの原始点へ物凄い重力で引き付けられている。その重力はアッと言う間に10倍、20倍となる。昔、あるマンガで100倍の重力で修行していた宇宙人がいたが、宇宙人だからできることであり、通常の人間に耐えられるものではない。
「うわーっ!」
そもそも重力が100倍なのも一瞬のことに過ぎない。10の100乗倍になるのもあっという間だった。
全ての生き物はおろか、地球そのものが肥大化した重力で潰される。
時間にして、一分か、二分か。
世界は、いや、宇宙は滅亡した。
『世界を救いますか?』
『▶はい いいえ』
「…ハァ、ハァ…」
気づいたら、僕は理事長室にいた。
空気が軽い。体が軽い。
生きるということが、一瞬にして崩れるのだということを痛感させられた。
『世界を救える回数はあと二回です。回数が増えるまでにはあと50の好感度が必要です』
どこかから、声が聞こえた。
なるほど。確かに三回救えるらしい。それが二回になってしまった。
と考えると、随分軽率なことに貴重な一回を使ってしまったようにも思う。何せ先ほど世界が滅ぶ瞬間、魔央は「世界が滅びますように」とつぶやいただけである。それで簡単に滅びるとなると、今後も簡単に滅びそうな気がする。
「ああ、お試しで貴重な世界救済回数を一度使ってしまったのだね…」
首相がうなだれている。
いや、僕も「これはやらかしたなー」と思ってはいるよ。
でもさ、もう少し信用できるような形で説明してくれてもいいんじゃないかな。
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