第3話 突然の再会③

 首相を正面に、僕達二人が並んで座る。

 彼女はセミロングの髪を少し茶色に染めていて、服は白と青の組み合わせ。何とも言えない清潔感がある。昔、羽子板をして遊んでいた子がこんなに可愛かったのか。正直驚くしかない。

 しかも、許婚になるなんて言われると、本当に信じられない。

「さて、時方ときかた君。君に打たれた封印の刻印について説明しよう。その前に、彼女・黒冥くろやみ魔央まおさんについて説明する必要がある」

「彼女は、破壊神の化身なのだ」

「はい? 破壊神?」

「うむ。1999年のノストラダムスの大予言、2012年のマヤの大予言。この地球には世界滅亡の預言が周期的にやってくることはご存じかな?」

「いや、そういう方面は興味がないです」

 ノストラダムスの大予言は聞いたことはあるけれど、でも、23年も昔の話なわけだし、外れたということでしょ?

「外れたのではない。我々人類が防いだのだ」

 へー(棒読み)

「世界中の魔術師やら科学者が集まって、世界を滅亡から防ぐための組織があるのだ。彼らは二年に一回魔術師サミットというものを開いて、世界をオカルト系預言の滅亡から救うために日々奮闘している」

 首相、首相。

 国会ではないんですから、下向いて原稿読みながら話すの、やめてくださいよ。

 僕のジェスチャーを無視して、首相は原稿を読んでいる。

「今回、2022年の滅亡論は有名ではないが、極めて深刻なものだとされていた。シヴァ神、素戔嗚尊すさのおのみこと、イシュ・チュル神、セクメト神らが一斉に目覚めて、それぞれ世界を破壊するという代物だ」

「四人の破壊神が同時に世界を破壊しようとすると?」

 訳が分からない話だけど、世界滅亡の預言が沢山ある以上、たまたま幾つか重なるということはあるのかもしれない。

「そこで魔術師サミットは提言した。愛は地球を救う作戦を」

 首相はどや顔をして言い放ったのだけれど、いかにもどこかで聞いたような陳腐なフレーズだった。

「具体的には、四人の破壊神の転生を一人の人間に凝縮し、その人間を愛で取り包むことによって世界を救おうというものだ。提案は可決され、世界でも最強クラスの魔術力をもつという黒冥家が儀式を執り行うことになった」

「それで生まれたのが魔央さんである、と?」

「察しがいいな。その通りだ。彼女はこの可愛い外見だが、ちょっと望んだだけで世界が簡単に破壊されてしまうわけだ」

 …本当かいな。

 ドッキリか何かじゃないよね。

「具体的には彼女の18歳となる誕生日の日から三年間、破壊神としての力を発揮できると言われている。そして、その三年間、破壊神から世界を守るための封印者であり、許婚となる者が時方君、君だというわけだ」

「えーっと、それは7歳の時、羽子板で押しあったスタンプが原因だっていうこと?」

「その通りだ」

 記憶を掘り起こしているんだけど、確か、二人で羽子板をやっていた時に家の人が「おー、仲良くやっているな。どうだ? このスタンプで押しあったら?」って持ってきたんだよね。それで僕と彼女が「わー、面白そう」ってスタンプをペタペタ顔に押し合っていたはず。

 で、その中に世界の存亡にかかわるものが混じっていたわけね。

 どれだけいい加減な管理しているんだよ! 黒冥家!


「……それで、僕は何をすればいいのでしょうか?」

「君は今後三年間、彼女と過ごすことになる」

「はあ…」

「先ほども言ったと思うが、我々が目指しているのは、『愛は世界を救う作戦』だ。君達の愛が世界を救う」

「首相、さっき、『愛は地球を救う作戦』って言っていましたよね?」

 ほぼ同じ言葉だよ。でも、そういうところはきちんとした方がいいのでは…

「全く、君は野党やメディア並みに細かいな」

 首相がキレた。いや、本音を言えばこっちの方がキレたいんですけれど?

「…とにかく、君達が愛を育めば、世界が救われる確率は高くなるというわけだ」

 細かい指摘をしたせいか、また原稿から目を離さなくなってしまった。

 しかし、愛を育めば世界が救われるというのはどういうこと?

「君が彼女と一緒にいることに幸せを感じれば、世界を救える回数が増える」

「世界を救える回数?」

 首相が眼鏡を直した。

「ああ、説明していなかったね。彼女の破壊の力はあまりにも圧倒的だ。細心の注意を払っていたとしても、うっかり世界が滅びることはあるかもしれない」

 何それ、怖い。

「伝承によると君は滅びた世界を現時点で三回救うことができる。しかし、君が彼女といることで幸せを感じる…要は好感度が上がるとその回数が増えていくというわけだ」

 なぬ、僕の好感度?

 好感度といえば、ウズベキスタンにある街の名前だっけ?

「それはコーカンドです」

 何と、まさか魔央から突っ込まれるとは。結構ドマイナーなネタなのに。

「好感度の上昇というのは、当然ながら最初は手をつなぐあたりから始まって、キスをしたり、ピーをしたりすると上がっていく。もちろん、子供ができるのも大いにありだ」

「……さすがにそんなことは説明されなくても分かりますよ」

「そうか。今時の若者はそういうことも知らないという話もあるから、な」

 首相がそんなこと言っていいんかい。


 それはそれとして、僕は魔央の手を見た。細くて白い、いわゆる白魚のような指。

 まずはあれと繋ぐところからスタート……、するんだろうか?

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