第2話 突然の再会②

 僕は時方悠ときかた ゆう。都内の大学一年生。

 これから大学ライフを満喫するはずが、何故か突然結婚することになってしまった、らしい。

「いやいや、明日がお嬢様の18歳の誕生日でしたから、ギリギリでしたな」

 誰か知らないが謎の執事らしき人が後ろにいた。汗を拭きながら、笑顔を浮かべている。


 いや、待ってほしいんだけど。

 本当に何が何やら分からないんだけれど。


「覚えていないの?」

 母が言う。

 いや、何を覚えているというのだ?

 言いたくないけれど、結婚はおろか、女の子と交際の話すらしたことがない。せいぜい川神先輩と抱き合ったことくらいかな。もちろん、それも一緒に野球を観戦していてサヨナラ逆転弾が飛び出してお互い我を忘れて抱き合っただけなんだけど。

 だから情けない話だが、僕ははっきりと否定する。

「何かの間違いでしょ。別の人と勘違いしているんじゃない?」

「ならば、おまえはその顎の下の刻印も分からないというのかい?」

 顎の下?

 いや、自分の顎の下に何があるか知っている人なんているのか? 見えないぞ。

 仕方なく携帯電話で写真を撮ってみると…

 あれ、マヤ文明の楔形くさびがた文字みたいなものがある?

 こんなもの、いつの間に?

「刻印って何の刻印なの?」

「そこから先は私が説明しよう」

 ドアがバーンと開いて理事長が割って入ってきた。

「時方君、君は母方の故郷が遠方県えんぽうけん彼方郡かなたぐん最果村さいはてむらだね?」

「そ、そうですね。15歳くらいまでは何度か行ったことがあります」

 本当に超絶田舎だということしか記憶していない。でも、大自然の中で遊ぶのは中々楽しかった。そこにいた同い年くらいの子との肝試しは本当に怖かったなあ。

「君は7歳の時、黒冥魔央くろやみ まおさんと封印の刻印をかわしたことになっている。その証拠が顎の下の刻印なのだよ」

 封印の刻印?

 何だ、それは?

 というか、黒冥魔央って誰?

 黒冥なんて、そんな物騒な苗字あっていいの?

 苗字だけでいじめられない?

「これが魔央さんだ」

 テーブルの上に写真が出てくる。


 えっ!?

 何、この子、可愛い!

 えっ、僕、こんな子と会ったことあった?

 この写真、加工しまくっているんじゃないの?

 あ、でも、7歳って今いったか。

 うん、7歳?


「もしかして…」

 僕は記憶の糸を手繰る。

「正月に帰省した時、羽子板をして墨を塗りあっていた子?」

 そうだ! 最初は筆で書いていたけど、途中で相手の家族が変なスタンプを持ってきたから、「わあ、面白い模様」とか言ってお互いに押し合っていたことがあった。その相手が、この可愛い子なのか? というか、そのスタンプがこの顎の下の謎の模様か?

 というか、封印の刻印って何なんだ?


 そう思った時、扉がバーンと音を立てて開く。

「そこから先は、私が説明しよう!」

 また何か、変な奴が出てきた!?

 途中から出て来て、「私が説明しよう!」って偉そうでカッコいいけど、二回続くとワンパターンだから!

 あれ、でも、この人どこかで見たことあるぞ。ちょっと頼りなさげなおじさんという感じの風貌だけれど、理事長より高そうなスーツを着ている。

「時方君、初めまして。私は内閣総理大臣・石田いしだ富士雄ふじおです」

 内閣総理大臣!?

 しかも隣に彼女がいた。

「お、お久しぶりです…悠さん」

 実物の魔央は、写真よりも可愛かった…。

 そして、セミロングの茶髪をかきあげたうなじの下に、やはりマヤ文明の楔形文字みたいな刻印があった。

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