世界は二人だけのもの
川野遥
結婚相手は破壊神?
第1話 突然の再会
『文学部1年の時方悠君、時方悠君。至急、文学部事務所までお越しください』
大学全体に広がる校内アナウンスで呼び出されたのは、もうすぐ大型連休になろうという4月下旬のことだった。
隣にいる一年先輩の川神聖良先輩が僕の顔を見た。
「時方君、何かやらかしたの?」
「いや、身に覚えはないですけど…」
ここは都内の私立大学、まあまあ知られているところ…だと思う。
一学年の違いはあるけれど、僕達は同じ野球チームのファンということで、結構仲がいい。綺麗どころっていう感じの先輩と、とりたてて特徴がない僕との取り合わせはあらぬ妬みを買うこともあるけれど、今のところ一緒に応援する以上の関係はない。
『繰り返します。文学部1年の時方悠君~』
校内アナウンスが再度繰り返される。通知音がしたから携帯電話を取ると、メールとメッセージでも『至急事務所に来るよう』とあった。
「仕方ないなぁ」
これ以上、延々と自分の名前を連呼されるのも本意じゃない。仕方なく事務所の方に行こうとすると先輩もついてきた。
「何でついてくるんですか?」
「いや、何をやらかしたのかなぁと思って」
ニヤニヤと笑うその顔は、僕の失態を聞けそうだという期待に満ちていた。
参ったなぁ。思わずハァと息が漏れる。
「何もしてないですよ」
心当たりは全くない。何か悪さをして呼び出されていると思われるのは不本意極まりないけれど、仮に別の人が同じように呼ばれていたら僕も同じことを考えただろうな。
先輩と一緒に、文学部校舎の一階の事務所に入った。
「1年の時方です。呼び出しがあったので、来ました」
入り口でそう挨拶をすると、ガタガタっとすごい音がして、その場にいた職員が一斉に立ち上がった。な、何なんだ?
責任者らしい人が駆け寄ってきて、僕の肩に手をかける。
「よし。すぐに移動しよう」
「えっ? 移動って、どこに、ですか?」
「決まっているだろう。理事長室だ」
理事長室?
「こちら文学部事務所。時方悠を確保いたしました」
奥では女性職員が電話をしている。
「時方君、もしかして、君、誰か殺しちゃったりしていないわよね?」
川神先輩の心配そうな声。
「何でそんな話になるんですか?」
反論はするけれど、確かに「確保」なんて言われたら、気になる。もしかして何かの冤罪にでも巻き込まれてしまったのだろうか。
しかし、何が何やら分からないので、ひとまずついていくしかない。
大学本部の一階、理事長室はいかにも理事長室って感じの部屋だった。立派な机があってそこに大学パンフレットで見たような気がする理事長が座っていた。
「来たか、時方君!」
その理事長が立ち上がり、僕を隣の部屋に連れて行く。理事長室に来て、更に隣の部屋に移動させられるってどれだけ厳重なんだと思う。
あ、ちなみに川神先輩とは理事長室に入る前段階で「君はここで待っているように」と別れる羽目になった。何で呼ばれたのかを知られずに済むのはありがたい反面、明日、ものすごい追及を受けそうで気が重い。
「…うん?」
とりあえず今は目の前のことだ、と思った途端に。
「悠!」
えっ、いきなり名前を呼ばれて、見た先には…
「母さん? それに父さんも…」
何故だか僕の両親がいた。
いやいや、ちょっと待ってよ。何だか大変なことになっていない?
本当に僕は冤罪で逮捕されるんじゃないだろうかと思ったけれど、両親の顔はそういう感じの顔じゃない。むしろ冤罪であると判明したようなホッとしたような顔をしている。振り返るとここに連れてくる職員も逮捕される犯罪者を見るというより、とても安堵したような顔をしていた。
ますます分からない。
「良かったわ。無事に来てくれて」
無事に来てくれて?
僕は失踪したことにでもなっていたのか?
「それにしても、まさか悠が結婚することになるとはなぁ」
父がしみじみと語る。
ちょっと待った。
結婚?
何、それ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます