第28話 レイリッド神聖国
――“勇者”は“転生者”である可能性が高い
小鳥遊君はあくまでも予想で、確証は持てないと言っていた。
しかし、俺は間違いなく勇者は転生者だと思う。
なぜか?
それはレイリッド神聖国の開戦を止めて欲しいと頼んできたのは女神だから。
これが単に聖国の暴走だったとしたら、俺にまで依頼は回ってこない。
アイツにはアーロンのような使いが何人かいる。
人同士の争いならば、ソイツらを使って収めようとするハズだ。
それをしないとなれば、現地人では手に負えない案件だということ。
「……面倒だ」
「何がです?」
「いや、何でもない」
思っていることが口から漏れたようだ。
向かいに座るアーロンが不思議そうな顔をしている。
聖国へ向かう馬車に揺られること数日。
舗装されていない道によって大臀筋がかなり鍛えられてきたところだ。
これといってやることがないので、道中は暇で仕方ない。
手慰みに小物でも作ろうかと思ったが、揺れが激しい馬車では不可能。
つまらない。
だが、文句を言ってもいられない。
正規ルートで入国するならこの方法が一番良いのだから。
今回、俺はアーロンの部下の一人として聖国に入国する。
ヴィーの転移魔法で聖国に侵入して、俺が暴れれば解決――ってなれば一番だったんだが、状況が状況だけにそうも言ってられない。
開戦に向けたパレードには各国の要人が参加するため、好き勝手に俺が暴れた場合、事態を悪化させかねないのだから。
同じ理由で、聖国の上層部暗殺もNG。
ならばどうするのか?
……実は決まっていない。
パレードに関する情報が驚くほど出回っておらず、幾つか作戦を立てることはできても現地に入って状況を見るまでは何とも言えないのが正直なところだ。
まあ、全部アーロンに任せている。
俺は実行専門だから、難しいことは分からない。
チェスとか将棋とかも弱かったし、作戦を立てること自体向いてないんだと思う。
適材適所。
良い言葉じゃないか。
***
ヴィーの作る食事だけを楽しみに、ルミキスカの町から一週間。
ようやく聖国の首都『ローグライト』に着く。
パレードは明日なので、ギリギリ間に合った形だ。
「マスター、どうやら勇者のお披露目が本日行われるようです」
「そうか……ありがとう、下がっていい」
「失礼します」
宿でアーロンと作戦を煮詰めていると、彼の部下の一人が勇者の情報を持ってきた。
「民衆へのアピールか?」
「でしょうね」
「一応、見に行くか」
勇者がどんなヤツなのか気になることだし。
アーロンとともに、ローグライトの大通りへと向かう。
「それにしても、人集りが凄いな」
「それだけ勇者登場のインパクトが強いのでしょう」
まるでアイドルのコンサートか、スポーツ選手の凱旋だ。
暑苦しい。
「それだけじゃないみたいですよ。どうやらこのお披露目は、勇者と聖女の婚姻を大々的に発表する目的もあるそうです」
よくある手法だな。
政略結婚。
本人の意思を無視して、なんて事は言わない。
現代でもよくある事だからな。
会社と会社の繋がりを強めたり、政治的な発言力を強めるためには、手っ取り早く最も効果的な手法だ。
ましてや相手は勇者。
聖国にとって強力な手駒であると同時に、一歩間違えれば諸刃の剣と成り得る。
ちゃんと首輪で繋いでおきたいんだろ。
「来ましたね」
「ああ」
集まった民衆が歓声を上げる。
五月蠅い。
勇者と聖女は祭りの神輿みたいなものに乗っているようで、人々はそちらに向けて手を振ったり、聖国の国旗を振ったりしている。
ああ、やっぱり。
あれは転生者だろ。
歳は10代半ばから後半。
そして、日本人。
学生か?
煌びやかな鎧に身を包み、民衆に対して手を振り返している。
でもって聖女の方は――
「――は?」
「どうかされましたか?」
勇者の隣で控えめに手を振る少女。
白を基調とした神秘的な祭服に身を包み、笑みを浮かべている。
その美しさと儚げな様は、女神に勝るとも劣らない。
だが、俺が驚いたのは聖女の美しさではない。
俺が驚いたのは彼女と面識があったからだ。
「……シルヴィア」
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