第25話 ヴィーの奇行3



――


お色気って、どこまでokなんですかね?


――



 狩りから帰宅後。


 俺は大浴場に直行していた。


 それにしても、あれは悲しい事件だった。


 ワイバーン惨殺ミンチ事件に始まり、その他4件の哀れな被害者たち。


 特に巨大スライムの件は悲惨の一言に尽きる。


 アイツが何をしたのだろうか?


 スライムは物理攻撃に対する耐性が高い。


 というか再生能力が凄まじい。


 そのため、通常は魔法によって討伐するのが一般的とヴィーは言った。


 剣で倒せないこともないが、その場合は何百、何千と攻撃を加え、スライムのエネルギーを消費させ、再生できなくする必要があるのだとか。


 『ですがこの剣は高位の魔物を素材にしているため、付与魔法エンチャント無しでも魔力的な攻撃が可能となります』なんて説明したと思ったら、俺の作ったグランドイーターの剣でスライムに斬りかかった。


 そして、みじん切りにされること数回。


 発声器官を持たないはずのスライムの叫びが聞こえた気がした。


 再生しては斬り刻まれるスライムに同情を禁じ得ない。


 すまない、スライム君。


 俺がヴィーに剣なんて与えてしまったばかりに……。


 他の3件の被害者たちにも、この場を借りて謝ろう。


 ブラッドヴェノムベリーを食べる俺でも、流石に地面に落ちた肉は食いたくない。


 塊なら洗えばいいが、ミンチはちょっとムリ。


 衛生的に抵抗感が……。


 湯に浸かる前に、念入りに体を洗う。


 戦闘は全てヴィーが行ったが、かなり飛沫を浴びた気がする。


 普段の家事が完璧なヴィーがそのような失敗をするとは考えにくいが、本人が血塗れだったのを考慮すると強ち気のせいとは断じづらい。


 ワイバーンの件もあったことだし、洗髪は念入りにする。


 そして、本日最大の受難が俺に降り掛かる。


「失礼します」

「!?」


 シャンプー(ヴィー特製)で洗髪していたところ、聞き覚えのある声が響いた。


 いや、言葉を濁すのは止めよう。


 女湯の方に行ったはずのヴィーがこっちに入ってきた。


 驚いて目を開けた表紙にシャンプーが目に入る。


 神になってもこういう所は普通に痛い。


 シャワーで泡を流し落とす。


「お背中を流します」


 有無を言わせないヴィーの猛攻。


 浴場に入ってきたと思ったら、次の瞬間には俺の背後を取っている。


 お前は一流のアサシンか何かか?


「失礼します」

「……」


 ……おい、待て。


 今、俺の背中を洗っている二つのスポンジはどこから出してきた?


 そんなもの、今まで見た覚え無いんだけど?


「ご安心を。実践の経験はありませんが、心得ております」

「……」


 心得ております、じゃねぇよ!


 そんでもって耳元で囁きかけるな!


 ヤバい、頭に血が上ってきた。


 湯に浸かってないのに逆上せるとか冗談じゃねぇ。


 嫌が応にも背中は熱くなってくるし……。


 ……。


「……何を焦ってる?」

「ッ!」


 やっぱり、か。


 背中に伝わるヴィーの鼓動。


 緊張か?


 今朝から何かとおかしい行動をしてたが……。


「私は家事ができます」

「ヴィーの料理は美味いよな」

「剣も扱えます」

「昼間、めちゃくちゃ斬ってたな」

「農作業もできます」

「いや、アレを農作業とは呼ばない」

「……」

「話の腰を折って悪かった、続けてくれ」


 沈黙するヴィー。


 いや、だってアレは農作業じゃないだろ?


 ヘクタールとかの単位で作物育てるのはプランテーション農業とかで、農作業の枠から明らかに逸脱してるし。


 とか思っていたら、ヴィーから抱きしめられる。


「これからも隼人様のメイドでいさせてください」

「……」


 そうか。


 討伐者の三人が来たのが原因だったか。


 俺はエイルに試し斬りを頼み、シルヴィアに農作業を教わった。


 そう考えてみると今日一日のヴィーの奇行は、エイルとシルヴィアに張り合っていたように思える。


 ヴィーは俺の力になれなかったのを後悔しているんだろう。


 コイツ、何かと付けて俺のメイドをやりたがるから。


 俺が三人を連れてきたのは、ヴィーの矜持とか自尊心を傷付けたんだろう。


 どうやって答えたものか?


 いや、決まってるな。


 無駄に言葉を飾る必要は無い。


 俺はそっと、ヴィーの手に自分の手を重ねる。


「俺からも頼む。これからもメイドを続けてくれ」

「……はい」


 さて、上手い具合に話は纏まった。


 ヴィーがいくら無口でクールでも、寂しさとかは感じるんだな。


 これからはもう少しコミュニケーションを取ることにしよう。



 ……で、だ。


 背後からヴィーに抱きしめられたこの状況。


 ここからどう行動するのが正解だ?


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