第24話 ヴィーの奇行2
――
大丈夫ですか?
面白い作品になっているのか心配です。
――
昼食はやたら豪華だった。
ヴィーの焼いたパンは買った物どころか、前世でも食べたことのないような美味さだった。
まず、柔らかさが違う。
こちらのパンは、基本的にライ麦パンだ。
それも、発酵が甘いヤツ。
美味いことには美味いのだが、パンとクッキーの間くらいの堅さで食べにくく感じることもある。
対してヴィーのつくったライ麦パンは、完璧としか言えないようなデキだった。
歯を押し返す程よい弾力。
麦本来の甘さ。
噛めば噛むほど味が出てくる。
スープにもヴィーの本気を見た。
琥珀色の透き通ったスープ。
まさしく、コンソメスープだった。
何かで見たが“コンソメ”という言葉は“完成された”という意味らしい。
完成されていた。
肉や野菜の旨みが凝縮され、一口飲めば次が欲しくなる。
メインは暗黒竜のステーキだったが、アレはヤバかった。
あの味を表現できる語彙を俺は持ち合わせていない。
昼食と言う名の至福の時が終わる。
しばらく美味い料理の余韻に浸り、午後からは狩りに行くことに決めた。
本来なら明日行くハズだった狩りだが、ヴィーが畑の野菜を生長させたのでやることがない。
なので予定を早めた。
……。
「何で、お前いるの?」
「たまには狩もいいと思いまして」
出たよ、ヴィーの“たまには”。
お前、メイドじゃないの?
魔法使えて家事全般も難なく熟して、その上狩りとか。
多彩過ぎやしないか?
ヴィーの強さは初日に確認済みだし、この森の魔物程度に後れを取ることはないだろうけど。
「ギュン!?」
「……」
……さっそく獲物を狩ってるし。
ウサギみたいな魔物が現われたと思ったら、飛び出した勢いそのままに地面を滑っていった。
おそらく、俺たちに襲い掛かろうとしたところ、ヴィーの魔法で返り討ちに遭ったんだろう。
ちなみに“みたい”が付くのは、コイツの体長が2メートル近いから。
こっちの魔物は全般的に元の世界の動物よりも巨大だからな。
食べ甲斐があっていい。。
今晩はコイツのローストか?
「では、そのようにいたします」
「……」
ヴィーが俺の心を読んで返事をする。
女神もそうだったが、俺の内心は読みやすいのだろうか?
***
「ガアアア!!!」
「……」
「グギャオ!?」
>クマみたいな魔物が襲い掛かってきた。
>ヴィーの回し蹴り。
>クマみたいな魔物は倒れた。
「キュオオオ!!!」
「……」
「クグェ!?」
>巨大な鳥の魔物が現われた。
>ヴィーの魔法攻撃。
>不可視の斬撃が鳥の魔物を襲う。
>鳥の魔物は倒れた。
「ォォォオオオ!!!」
「……」
「オォォォ……」
>ゴーレムが現われた。
>ヴィーのパンチ。
>ゴーレムは砕け散った。
「……」
「何か?」
いや、『何か?』じゃないんだよ。
俺がいる意味なくね?
魔物が現われた傍から、全部ヴィーが倒していくんだけど?
お陰で朝作ったグランドイーターの剣を試し斬りする暇が無い。
いや、何も俺がやらなくてもいいじゃないか。
エイルの時みたく、ヴィーに試し斬りをしてもらえばいい。
「ヴィー「何でしょう」」
食いつき速いな。
「コレの試し斬りをやってくれ」
「お任せください」
俺はグランドイーターの牙で作った剣を手渡す。
それを恭しく受け取るヴィー。
騎士の叙任式か何かか?
別に跪かなくてもいいんだけど。
「使い心地の感想を聞かせてくれ」
「お任せください」
「……」
ダメだ、聞いてない。
ヴィーの視線が手元の剣に釘付けだ。
抑揚のない声で生返事が帰ってくる。
いや、声に抑揚がないのはいつものことだが。
そんなに武器が好きなのか?
ここまでの狩りだって、剣や槍、時にはハルバードだったりと多彩な武器を使っていた。
まあ、ヴィーほどの腕前があるのなら、例え俺の作った剣が
となれば、後は魔物なんだが――
上空を見るヴィー。
つられてそちらの方向を見ると、小さな黒い点が見えた。
あれは……ワイバーンか?
すると突然、ヴィーがワイバーンに向かって跳躍した。
魔法を使っているのか、空中にいながらも加速している。
ワイバーンがそれに気付いたとき、ヴィーは回避できないまでに接近している。
すまない、ワイバーン。
お前は俺たちを襲ってきてないのに、俺がヴィーに剣なんて手渡したばっかりに。
一閃。
ワイバーンは断末魔の叫びを上げることなく、無数の肉塊に斬り刻まれた。
しばらくして、赤い塊がドサドサと落ちてくる。
最後にヴィーが軽やかに舞い降りてくる。
「素晴らしい一振りです。グランドイーターの牙を素材にしているので耐久性に優れます。それに加え、高い斬れ味……一級品と呼んで差し支えない出来であると存じます」
ああ、気に入ってくれて良かったよ。
そこまで饒舌に話すヴィーを俺は初めて見た。
それはともかく。
血塗れで剣にうっとりとした視線を向けるのは止めないか?
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