第0話 全ては、三徹の高揚感とヘッドライトの眩さに帰結する
『セカンドライフ』という言葉をご存じだろうか?
退職後、もしくは現役を引退した人が、趣味や習い事、新たな仕事を模索すること。
よく第二の人生を歩むといった場面で使われる。
多くの場合は老後の生活のことを指すであろう言葉だ。
そして俺も、絶賛セカンドライフの真っ只中にある。
もっとも俺の場合、セカンドライフとは文字通りの意味だ。
1回死んでから二度目の人生をスタートさせる。
そんな、ガチの『第二の人生』を指すのだが……。
◆◆◆
まずはじめに、俺が死ぬことになった経緯から説明しよう。
早い話が過労死である。
何を思ったのか車の行き交う横断歩道へ躍り出て、トラックに跳ねられて即死。
最期に見たのはバラバラに千切れ飛ぶ自分の手足だった。
あれはグロいったら何の。
反面、思ったよりも痛みはなかった。
きっと、脳の痛みに対するキャパシティが――そんな話、どうでもいいか。
本当に何を考えて歩道を飛び出したのか、何度思い返してみても理解できない。
赤信号だと分かっていても、周囲の人が横断歩道前で歩を止めていても、あの時の俺はなぜか「前に進む」という選択肢を選んでいた。
それは過労死じゃなくて事故死だって?
はっはっは。
もしお前が月曜から金曜の5日間は3時間睡眠、土曜は午前7時出社の翌午前1時帰宅、日曜は持ち帰りのサービス残業を1ヶ月続けて顔面痙攣が起こらなかったら、素直に俺の死も事故死と認めようじゃないか。
ちなみに、死ぬ二日前から連徹。
まったく、死んでから睡眠の偉大さに気付くとは。
つくづく情けないと思う。
そもそも、なぜ退職という選択肢が頭の片隅にでも思い浮かばなかったのか。
あの時の俺を問いただしたい気分だ。
だがまあ、起きてしまったものはしょうがない。
どちらかと言えば、俺が死んだことで不利益を被るであろうトラック運転手には申し訳ない気持ちで一杯だ。
それと警察やその他関係機関の職員の皆さん、目の前でスプラッタを見せてしまった通行人の方々、本当にすいません。
ああ、勤めていた会社は世間からバッシングでも受けてどうとでもなってくれ。
てか、氏ね。
特に係長の福田。
アイツ、タイピングすら満足にできない癖に、部下に仕事押しつけやがって。
お前のせいで何人辞めてると思ってんだ?
体調管理は自分の責任なんて言葉をよく耳にするが、下の体調も管理できずに定時退社する輩は氏ねばいいと思う。
それでいて、俺みたいなヒラの何倍、下手すると何十倍、何百倍の所得なんだから、世の中の不条理を嘆かずにはいられない。
――と、ここまでが俺の第一の人生。
そして死んだ俺は、この後に閻魔様の審判でも受けるか、それとも天国に行けるのか。
はたまた死後の世界など存在せずに無に還るのか……。
そんな感じの未来、という言い方もヘンだけれども。
とにかく俺という人間は終了するはずだった。
――本来ならば
それを何の因果か知らないが、掬い上げる存在がいた。
斯くして、俺という人間の1つ目の物語は終わりを迎える。
そして終わりとは、新たな物語の始まりでもある。
尤も、その時の俺は、この後に起こる不可思議な展開を知る由も無かった訳だが――
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