世界の十字路17~終焉を司る神の物語~
時雨青葉
プロローグ
追い詰められた存在
―――ああ。もう、時間がない。
全身を、焦燥感が満たす。
気が遠くなるような長い時間。
彼という存在に出会うために、どんなことでもしてきた。
一度は失ってしまった彼を手元に取り戻し、手塩にかけて大切に育ててきた。
そしてとうとう、彼の口から〝もうよそ見をしない〟という宣言も聞いた。
自分が手を回すまでもなく彼が自らそう決断したのは驚きだったが、それを聞いた時には本当に嬉しかったのだ。
今頃彼は、己の未練を断つために行動しているだろう。
しかし無情なことに―――自分の方が、それまで持ちそうにない。
自分が持つ力のほとんどは、すでに彼へと引き渡してしまった。
それに加えて、自分が宿るこの肉体にも限界が近い。
内側の力も外側の力も弱まったせいで、この呪いとも呼べる力に逆らうことが難しくなってきている。
油断をすれば意識をさらわれそうになって、時おり自分がどんな存在であったかすらも分からなくなる。
このままでは、自分は悲願を達成できずに消えてしまうだろう。
新たな肉体に住み替えようにも、その際には一瞬とはいえ、自分の体が人間の肉体を離れる。
強くなりすぎたこの呪いはきっと、その一瞬の隙を
そこで呪いに完全に囚われてしまえば……自分の存在は、純然たる白に塗り替えられてしまうのだ。
嫌だ。
このまま消えたくない。
自分は確かに、ここにいたのだ。
たとえこの存在が消えてしまったとしても、これまで抱えてきた感情と自分が歩んできた軌跡だけは消させるものか。
目の前にあるのが消滅だけなら、最後の幕は自分の手で引いてやる。
せめて……この想いだけでも、愛しいあの子に―――
「私も、最後の賭けに出る時が来たか……」
ぽつりと呟いて、暗い部屋にかかったカーテンを開ける。
窓の外に広がるのは、平和という言葉を具現化したような景色。
それが―――どうしようもなく、憎たらしかった。
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