第一章 4 帰宅
魔物の肉を食べるという奇妙な食事を終えたポラリスとアストラは食器を片付けて再び向かい合った。
ポラリスは目が覚めてからずっと不思議だった自分に起きた出来事をアストラに説明を求めた。
「説明すると、透明化していたクモの魔物名前を《アノマリースパイダー》って言うんだけど、そいつが君の背後に迫っていた。それに気が付かなかった君は石化の能力を持ったそいつに攻撃を喰らった。それを見ていた私はクモを倒して君をここに運んで状態異常回復薬を君に掛けたって感じだね」
「そう、ですか……」
アストラさんの説明を聞き、僕は自分の弱さに嫌になり大きくため息を付いた。
「まぁまぁ、初めてのダンジョンなんだから仕方ないでしょ? 次は同じ失敗を繰り返さないのが大切なんだから」
アストラさんに慰められているが、僕の心の内はそんな言葉で晴れるようなものではなかった。
なんで? どうして? 今までやってきた師匠との修行はなんだったんだ? 僕は師匠の一番弟子なのに、これでは僕は師匠の弟子を名乗れない……。
僕は師匠のことが大好きだ。師匠として親代わりとして人として尊敬している。そんな人が、僕一人のために時間を割いてくれたのに、初めてのダンジョン攻略でなんの成果も得られなかった。
「……師匠に顔負け出来ないよ」
ポラリスの言葉を聞いたアストラは慰めるために笑顔でいたが、今のポラリスの言葉を聞いて険しい顔に瞬時に変化した。
「ポラリス、お前がダンジョンにどんな想像して挑んだか知らないけど、ダンジョンを甘く見るんじゃない!!」
アストラの今まで聞いたことのない大きな声に、ポラリスは目を点にしながら顔を上げた。
そんなポラリスをよそにアストラは更に言葉を続けた。
「お前は、ダンジョンに何しに来た? 日稼ぎに来たのか? それとも、一攫千金を夢見て来たのか? 違うな、お前はその師匠の為にダンジョンの最下層を目指しているんだろう? ダンジョンの完全攻略を目標にしてるんだろう? だったら、生きろ! このダンジョンはお前の魂までも殺しに掛かってくる。そんなお前ができる対抗手段は一つ生きることだ。どんなに惨めでも悔しくても生きて再びダンジョンに挑むんだ。それが、このダンジョンの攻略方法だ!! お前は、ダンジョンを攻略する為にも、師匠を泣かせない為に生きることを最優先にするんだ! 分かったか!!」
僕はアストラの言葉に心を打たれ、改めて師匠が泣く姿を思い浮かべた時胸が締めつくような悲しさに襲われた。
そんな思いを師匠にして欲しくないし、自分自身もしたくない。ならどうするか、答えは決まっている。――生きる。強くなり、生きて帰るのが普通になるまで強くなる。
「お、良い顔になったじゃないか。そろそろ、外は夜になる出口まで送ってやるから行くぞ」
「はい!」
アストラさんの後ろをついて行くように出口に向かっている。その間、出てくる魔物は全てアストラさんが倒してくれる。
何もない場所にアストラが走って行ったかと思ったら何かが動く音と共に大剣を振るい、何もいない場所からアノマリースパイダーが真っ二つに切り裂かれて血を噴き出しながら現れた。
他にもネコやカエルのような魔物を倒して出口に向かった。
それから少し時間が経過し、僕は無傷でダンジョンから出ることが出来た。出口が見えると僕は生きて帰れることに嬉しくなり走って扉に向かい勢いよく開けた。
ここまで連れてきてくれたアストラに感謝を述べようとして後ろを振り返った。
だが、そこにアストラの姿は無かった。
「……アストラさん、何処に行っちゃったんだろう?」
僕は疑問に思いながらも師匠の待つ家に向かった足を進めた。
外は既に暗くなっていて街灯と居酒屋の光だけが大通りを照らしている。
小腹が空いたので初めてのダンジョンで生きて帰って来れたことへのお土産として数本の串肉を買って家に帰った。
「師匠! ただいま!!」
僕が家に帰って扉を開けると、僕の帰りを待っていた師匠が僕に胸に跳んで来た。僕は受け止めきれずに師匠に押し倒されてしまった。
「――おかえり!!」
「し、師匠?」
師匠は僕に抱き着きながら涙を流していた。
初めて見る師匠の涙に僕は動揺してどんな風に声を掛けたらいいのか分からなかった。
「死んだと思った」
今にも消えてなくなりそうな声で師匠は呟いた。その言葉に僕はさっきアストラに言われた言葉を思い出し、再び胸に刻んだ。
「師匠。僕は師匠を悲しませるようなことはしません。だから、僕は絶対に死にません」
僕は師匠の頭を撫でながら力強く、意志を込めた言葉を口にした。
「……うん、死なないで、ポラリスは私の希望なんだから」
師匠が落ち着きを取り戻して買ってきた串肉を食べようとしたとき、僕はお腹を下した。
「ゔ、お、お腹が痛い」
僕は今までの人生で初めてのお腹の痛さにトイレから出ることができなかった。
「ポラリス、大丈夫? 変なものでも食べた?」
「へ、変なもの、特には……あ」
「え? なにか食べたの?」
そこで思い出した。
「えっと、ダンジョンで魔物の肉「はぁ!?!?!?」を……」
ポラリスの言葉に被せるように師匠は驚きトイレのドアを蹴り破った。
「こんの、大バカ者!!!!」
その夜、ポラリスは師匠にトイレを見られながら、お腹が痛いから逃げることも出来ず羞恥を味わっていた。腹痛は翌日、お昼まで長引き夕方にやっとトイレから出ることができた。
「もう二度と魔物の肉なんて食べない」
僕はそう決意した。
そこで、一緒に魔物の肉を食べたアストラのこと思い出した。
「あ”あ”! お腹いてぇ!!!」
一緒に魔物の肉を食べたアストラも、もちろんお腹を下してトイレの住人になっていた。
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