scene3
校長はイラついていた。東郷の授業が教育委員会などの目に止まれば評判が落ちかねない。今すぐやめさせるべきだ。校長は腹を括り自分の部屋へ入る。話だと東郷が先に入っているはずだからだ。東郷はソファに腰を下ろしていた。足を伸ばしテーブルの上に足をかけている。
「東郷先生、なんで呼ばれたかわかるかな?」
「いえ、さっぱり」
「君の授業の内容だよ。教科書を使わずに単元は全く進めてないそうじゃないか?」
「生徒達には大切な事を教えてますので心配いりません」
「大切なことね、悪い事じゃないだろうね?最近東郷先生、人が変わったように横暴な性格になったそうじゃないか」
「悪いことは一切教えていません」
「本当かな。東郷先生、今回は休暇を取ってはどうかね?代わりの先生が入るから」
「それはダメだ」
「なにって?」
「ダメだって言っているんだ。聞こえなかったのか?」
「東郷先生、口の利き方に気をつけたらどうです?」
「そっちこそ気をつけてはどうです?」
「なにを?」
「なんでこんなジジイを選んだんだ」
東郷はボソッと言葉を漏らした。
「ジジイとはなんだね。ジジイとは」
「不倫の事実はどうするんですか?」
「不倫?そんなことしているわけないだろ」
「とぼけるんですか?俺の妻と不倫してるのに?前自分から言ってましたよ。不倫してるって。こっちは本気ですけど。別に弁護士雇って訴えればいいし、いいですか?校長先生。今後、授業の進め方に文句は言わないでいただきたい。そして俺は休まない」
東郷は部屋から出て行った。
咳が止まらない。息苦しい。東郷はなんとか近くの壁に寄りかかる。
「終わらせなければ」
東郷は何事もなかったように振る舞い撮影現場に戻った。
「今の進行状況はどれくらいだ?」
「六十二パーセントほどだと思います」
「よし、この調子でいこう。次のシーンは?」
「生徒達が映画の内容について話し合うシーンです」
「わかった」
「じゃあ、始めよう」
「カット」
子守が言った。
「佐々木さんも先生も演技うまいっすね」
「そうか?」
東郷が照れ臭そうに言った。
「で、今から話し合うシーンの撮影か」
「そうです。じゃあ準備します」
生徒達が自分の位置につく。ある生徒は座り、ある生徒は立ち、ある生徒は壁に寄りかかり、カメラはカメラマンがいないため固定カメラだった。東郷のプランとして作戦会議をしているみたいに撮るため、固定カメラはもってこいだった。
「じゃあ始めるぞ。3・2・1・アクション!」
東郷が言った。
「で、内容はどうするの?」
佐々木が言った。カメラは佐々木が真正面に映る構図になっていた。
「現実的な話か、ファンタジーか、だよな?」
子守が言った。
「でもファンタジーは無理くない?」
松川が言った。全員が頷いた。ファンタジー映画は編集が主流だ。仮に完璧な演技ができたとしてもその世界を作るCGなどの編集技術は乏しかった。
「じゃあ現実的な話でいこう」
佐々木が言った。
「じゃあドキュメンタリー映画みたいなのは?」
カメラには石道が映った。
「どういう風な?」
カメラが子守の方のカメラに切り替わる。
「今から先生を撮り続けて死ぬまで撮ってそれを編集して短編映画を作る。先生の姿を撮るんだ」
カメラが石道を斜め下から映す。
「ドキュメンタリーか、、」
全体をカメラが映す。
「いいかもね」
佐々木が言った。
「でも先生が死ぬところまで撮るの?」
松川を移すカメラに切り替わる。
「それは先生に聞かないと。でもドキュメンタリー映画ってのはいいと思う。死んでしまう東郷先生を映像の中に残せるし」
カメラが子守を映した。
「俺も」
「私も」
カメラが全体を映す。
「じゃあドキュメンタリー映画でいいね?」
佐々木が確認をとる
「異議なし」
「じゃあ先生にそれでいいか聞いてくる」
沈黙が流れた。
「カット!」
東郷が言った。
「良かった」
佐々木達は飛び跳ねて喜んだ。長丁場をよくやり抜いたものだと思ったのだ。
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