第6話 カッチコッチャ瀑布

「さぁ着いたわ。ここが今回の目的地、カッチコッチャ瀑布よ。

 ここは世界3大観光地の一つとされる場所で、長い年月をかけて滝が凍結して、氷瀑ひょうばくになっている場所なの。

 だからほら、周りは観光客でごったがえししているでしょ。

 これだけ大きな滝が凍っている様は、やっぱり魅了されるわね。圧巻ってやつよ。

 話によると、100年周期で凍った滝が割れて、その間に溜まった水が一気に放出されるらしいわ。

 そろそろその周期に入ったらしいけど、今日はまぁ大丈夫でしょう。


 レム。こんなところに癒音ゆおんは無いんじゃないかって思ったでしょ?

 ところが、この滝の裏に洞窟があって、そこの中にいい音があるらしいのよ。

 早速行ってみましょ。


 洞窟の中は辺り一面が凍っているから、ひんやりするわね。

 ここの狭いところを抜けてっと。

 もう少し奥の方へっと。

 さらに奥のほうへっと。

 あとちょっとだけ奥の方へっと。


 おやっ?随分開けたところに出たわね。


 なっ、何て美しい光景なの?

 魔法を使ったとしてもここまで神秘的なものは作れそうにないわよ。

 自然の織りなす技ってやつね。

 レム!レックリを出してちょうだい。録音を始めるわ。


 この音もらった!私が録っぴ!」


♪~カッチコッチャ瀑布の裏洞窟 最深部~♪

 いくつもの言葉を使ったとしても、この光景を表現できそうにはない。

 この自然美の前では、俺の持つボキャブラリは意味を無さない。


 だが、記録しておこう。

 俺の心に、今この景色と音をつぶやいておこう。

 不器用でもいいから。


 洞窟の奥深くまで来たというのに、明かりを灯さなくても周りが見えるのは、きっと入り口から差し込んだ日の光が、透明度の高い純氷じゅんぴょうでできた壁に反射して反射してここまで届いているからなのだろう。

 ダイヤモンドと言っていいほどの美しい輝きが辺り一面を覆いつくしている。

 もしかしたら、何年もかけてゆっくりと滴り落ちる水滴が、さらにゆっくりと凍っていったため、これだけ透き通った氷になったのかもしれない。

 白い陽の光が、いくつもの氷で出来たプリズムを抜けて七色へ別れると、さらにそれが反射していく。そしてその光は、最後の一粒になるまで屈折し続けて、また交わる。


 地表へ降り注いだ雨はやがて大地が吸収し、地中でろ過される。その不純物のない液体がじわじわと洞窟内へしみ出してくる。そしてその透明な液体は天井から一滴、また一滴と音を立てて水たまりへ落ちる。

 音の発生源はそれほど多くはないが、氷の壁が光だけでなく音さえも反射してこだましている。

 いつまでも輪唱し復唱し、ディレイし続ける。


 きっと何年も。

 あぁ心地よし。


 ただ、なんつうか、来た時よりも音が響いてねえか?

 どんどん大きくなっているぞ?

 もしかして、共振ってやつかもしれない。

 オペラ歌手が発声音だけでワイングラスを割っちゃうあれ!その超でかいバージョンだ!

 おいおい、このままいくとこの洞窟が崩れるぞ。

 ヤバい!崩れ始めた!

 えいっ!

 なんとか俺が壁を受け止めたぞ。だけど、いつまでもつか分からんぞ!

 このままじゃ洞窟だけでなく、外の凍った滝まで崩壊してしまう!

 外にはたくさんの観光客がいたし、まずいぞ!ユッコ!

♪~カッチコッチャ瀑布の裏洞窟 最深部~♪


 あら、あら、あら?

 なんてこと?

 100年に一度が今日だったわけ?

 なんて、なんて、なんて、、、


 なんて、ついてる日だっ!

 最高じゃない私達。きっといい音が録れちゃうわよ。

 メチャント楽しみだー!


 って、喜んでいる場合じゃないわね。

 私は外に出て観光客の避難誘導をするから、レムはここで、崩壊をくい止めてて!

 みんなが逃げたら合図を出すから、走ってここから出るのよ!わかったわね。

 じゃあ先行くから!

 っと、その前に一つだけレックリを持っていかなきゃ。うふっ」


 (ゴォゴォゴォゴォゴォ!!)


「レームー!いいわよー!出てきてー!

 そして、、、


 この音もらった!私が録っぴ!」


♪~氷瀑粉砕爆裂激流アイスバコーン~♪

 あわぁわぁわぁー。

 走れったって、天井も足場もどんどん崩れていくぞ。

 間に合ってくれ!

 だぁーーーー!!

 ふぅ。なんとか脱出できた。

 それと同時に洞窟が崩れ落ちた。


 100年もの長い間、凍り続けた滝に大きなヒビが入っていく。

 ヒビは雷のような軌跡を下から上に向かって登っていく。

 氷瀑にヒビが入りきったのだろう。白く変色したと思ったら、一気に崩れ落ちた。

 それはまるで、ガラスが割れる音。

 それも、大小様々。厚い薄い様々。すりガラス強化ガラス様々。

 何枚ものガラスが一斉に割れ、貯められていた大量の水がその破片を飲み込んでいく。


 ダムが決壊したかのような怒涛の水量が爆音と共に流れ出す。

 行き場をなくした水が岩場で跳ね返り、辺り一面に水しぶきとなって散らばる。

 あぁ、なんて綺麗な虹だ。

 今日はいいことあるかも。

 いや、もうあった。今だ。

♪~氷瀑粉砕爆裂激流アイスバコーン~♪


「さっすが私のレム。力持ちで勇敢でたくましい!グッジョブ!


 ありゃ?虹の中に魚が泳いでいるわ!

 あれはもしかして、100年間もの長い間、氷の中で冬眠していた、、、


 七色発光長眠浮遊魚ギョギョギョギョーン?!


 ふ、美しい。

 あっ!鱗が剥がれ落ちてきたわ。おみやげにもらっときましょ。

 えへっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る