第5話 メカンガルシティ

「ようやく今日の目的地に着いたわ。

 ここがスチーム機械都市メカンガルシティよ。

 ここはね、魔法を使えない人たちが集まって、科学を発展させた都市なの。

 昔にパパから話を聞いて、一度来てみたいと思っていたってわけ。


 この都市の中心部にある、あの大きな塔の中に入りたいんだけど、警備が厳重そうね。

 頼るあてもないし、、、やっちゃおっか?

 物を盗むわけじゃないし、サクッと音を録るだけだから、気づかれなければいいよね?

 ただ問題は、、、レムの巨体なわけよ。

 一緒に連れてくとなると難儀ね。

 何かに変装できればいいんだけど、、、

 ちょっとそこで、膝を折って座って、背嚢はいのうを前に抱え込んで、頭を下げてうずくまってみてよ。

 そうそう、いい感じよ、大きな石の箱になったじゃない。大事な荷物みたいでいいわよ。

 警備が近づいてきて私が合図したらすぐにこの格好になってよね。私はあなたの影に隠れるからさ。


 こっちの裏口は、警備が手薄みたいね。行くわよレム!

 それにしてもすっごい数のパイプが連なって遠くまで伸びているわね。

 話によれば、この塔で作り出した蒸気を都市中に供給しているらしいわ。さらに、近くの工場で金属加工するための超巨大蒸気エンジンもあるそうよ。

 あそこがボイラー室ね、入ってみましょ。


 うわぁー!大きな鉄の塊!

 いや、違うわ。中心のボイラー釜から伸びる無数のパイプやバルブが入り乱れて一つの大きな塊に見えるんだわ。これ一つでこの大都市へエネルギーを送っているのね。

 レム!レックリを出してちょうだい。早速録音を始めるわ。


 この音もらった!私が録っぴ!」


♪~スチーム機械都市の巨大ボイラーかい~♪

 何て大きさだ。俺が少し前に見たSL蒸気機関車の、ゆうに100倍はあるんじゃないのか?

 巨大釜で熱せられた水は蒸気となり、そのまま狭い場所へと押し込まれる。

 高温高圧となった蒸気が無数にある細いパイプの中を走る。

 時折、高くなりすぎた圧力を解放するため、開かれるバルブ。

 そこから余分な蒸気が勢いよく噴き出すと、それぞれが違う音の高さでで吹弾すいだんされる。

 それはきっと出口の口径違いがいくつもあるからだろう。


 横にある制御機構では、大きな歯車が回っている。

 小さく高回転の歯車から力が伝わり、ここまで大きな歯車を回すために、いったいいくつの伝達をしてきたのだろうか。

 よく整備され、オイルがしっかりいきわたっているためか、歯切れよく金属が高速で噛み合う音が心地いい。


 この張り巡らされたパイプを伝って町中へ圧力蒸気を供給する様は、心臓から血管を伝っていく血液を連想し、生命体のような躍動さえも感じる。


 あっちで機関士たちが立ち話をしているぞ?

 なになに?これから極秘プロジェクトの新型蒸気タービンを始動させるだと?

 まずい!ユッコの耳に入っちまった。これは間違いなく、、、

♪~スチーム機械都市の巨大ボイラー塊~♪


「行くっきゃないっしょ!!

 メチャント楽しみだー!

 どこだー?どこだー?

 新型蒸気タービンはどこだー?


 まずい!巡回警備が来たわ。

 レム!伏せ!


・・・・・・・


 ふぅ。もういいわ。行ったみたい。案外いけるものね。

 あら?レム、不機嫌そうね。ペットみたいな扱いが嫌だったの?

 仕方ないじゃない、とっさっだたのよ。悪かったわよ、次からは気を付けるわ。

 さーて、どこだー?極秘プロジェクトちゃん。


 ふっふっふっ。見つけちゃった。

 ここの扉の中にあるみたい。

 開けるわよ。


 な、なんて巨大なエンジンなの?

 本当にこんな大きなものが動くっていうの?

 あっ!ランプが赤から緑に変わった!

 きっとこれから回り出すのね。

 レム!レックリちょうだい!

 あれ?どうしたの?仕方ないわね、自分で出すわ。録音を始めるわよ。


 この音もらった!私が録っぴ!」


♪~メガスチームエンジン 八万気筒の悪魔デビル・タービン・エイト~♪

 伏せって、、、さんざんこき使ってきた挙句に伏せって、、、

 もう少しくらい絆があると思ってたのにさ、、、

 って、いじけている場合じゃない。


 こりゃマジですげー代物だ。

 吹き出し口の直径は10mはあるんじゃなかろうか。

 その中に無数の羽が、わずかにねじられて中心から外側に向かって、均等に敷き詰められている。

 エンジンの奥行きはといえば、見えないくらいにどこまでもパイプやギヤなどの部品で構成されている。


 蒸気が注入され始めた!


 一か所からだけじゃなく、四方八方のバルブから高温高圧蒸気が中心部へ送られている。羽がゆっくりと回り始めたぞ。

 飛行機のジェットエンジンの音に似ているが、こちらのエンジンは数百倍大きいから、その分だけ音もでかい。

 これだけ大きな羽が風を切る音は、まさに轟音ごうおん


 ピストンが動き始めた。擦れる金属音と、巨大な鉄の塊が衝突しあう打撃音。次第にスピードを上げ、心臓の鼓動のようにうねりだした。

 この超高速回転から生み出されるパワーなら、きっとどんな工業製品も作れるだろう。

♪~メガスチームエンジン 八万気筒の悪魔デビル・タービン・エイト~♪


「すっごいのが録れちゃったわ。

 早いとこずらかりましょ。


 あっ!跳ねたオイルで足が滑った!!こける!


 わっ?レム!ナイスキャッチ!!

 助かったわ。相棒!頼りにしてるわ。チュッ。

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