第4話 キャンプ

「そろそろ日が暮れるわね。今日は川沿いのここでキャンプにしましょ。

 レムはその辺の薪を拾ってきてちょうだい。


 ハンモックよし!

 薪ストックよし!

 夕食準備よし!


 ふぅ。一段落ついたわね。

 あとは、まったり食事して眠るだけ。

 森の中で時間を気にせずゆっくりと過ごして、その身をゆだねながら自然と同化する。これぞキャンプの醍醐味ってやつよ。

 レムは薪割り担当よろしく。うふっ。


 私ね、こうして焚火の炎を見ているとパパを思い出すの。

 幼い頃、よくキャンプに連れて行ってもらって、色々教わったわ。刃物や火の扱いとか、危険な場所の見分け方とか、それこそレックリの使い方もよ。

 周りの大人たちは、エルフはエルフらしく振舞えって言うけれど、パパは違った。自分のやりたいことをやりなさいって言ってくれた。

 ある日パパに聞いたの、どうしてパパは音を集めるお仕事をしているの?って。

そしたらこう言ったわ。


『音にはね、剣や魔法とも違った特別な力を秘めているんだ。僕はその無限の可能性でこの世界を幸せにしたいと思っている。いつかユッコが大人になった時は一緒に冒険の旅に出ようね』


 それからパパは次の旅で行方不明になってしまったの。

 私はパパの意思を引き継ぐとともに、その特別な力っていうのが何なのかも知ろうとして、たどり着いたのが癒音ゆおんだった。

 確かに高値の付くレア音源を求めてはいるけど、すべてがお金のためだけじゃないの。ケガや病気なんかの理由で遠くへ行けない人たちっているでしょ?そんな人たちへ音だけでも聞いてもらって元気になってもらいたいって思ってる。それがパパの言う世界の幸せにつながっているんだと思うの。

 だからさ、こんな何気ない焚火の音だって、外に出られない人から見たら癒しの音になるのよ。

 レックリを一つ出してちょうだい。


 この音、録っぴ!」


♪~名もなきキャンプ地の焚火~♪

 日が沈み、満点の星空の元、川沿いに灯した炎はユッコと俺をゆらぎながら照らす。

 腰かけた切り株から伝わる大地の息吹。今まさに自然と同化している。

 焚火の中で走る炎が、辺りの静寂によってさらに加速しているようだ。

 熱を帯びた小さな水蒸気が、木の組織を破壊して爆発音とともに外界へ出る。

 炎のゆらぎに合わせるよう、腰かけたハンモックを揺らすユッコ。その力でくくりつけた細木がきしむ。

 何とも癒される音だ。


 元気と好奇心だけの塊だと思っていたユッコ。

 焚火はそんな彼女の意外な一面を引き出した。


 時折、薪を割りながら、それをくべる。

 大学生の俺は時給がいいという理由だけでライフセーバーのバイトをはじめた。だが、救命方法や海の知識を身に付けるにつれ、将来は人助けに関係する職業に就けたらいいなと思いはじめた。

 そして今、もしこの世界から帰ることができたのなら、本気でそっちの業種でやっていきたいという決意が生まれた。

 焚火は自分自身の意外な一面も引き出した。


 煙と共に舞い上がる火の粉の寿命は儚く切ない。それを目で追いかける振りをして見たユッコの表情は、父を思っているのかどこか寂しげだった。

♪~名もなきキャンプ地の焚火~♪


「さー、お腹もいっぱいになったし寝よっか。

 おやすみ。レム、、、

 パパ、、、ムニャムニャ・・・」


◆◆◆◆


「この音、録っぴ!」


♪~名もなきキャンプ地の朝未あさまだき~♪

 音楽で例えるとするならば、川のせせらぎは、さしずめドラムと言ったところか。

 単調な音を流し続け、時折跳ねる魚の入水音がいいアクセントとなる。

 残りのギターやベースやボーカルは無数にいる野鳥の役目。

 鳥類がもつ鳴管めいかんと呼ばれる発声器官の大きさや、音を共鳴させる鼓室でその種だけが持つ唯一のメロディを紡ぎ出す。


 日が昇る前の朝未きに演奏される彼らの音楽は、昼に聞くそれとはどこか違う。

 早朝の環境音がこれだけ雄大なのは、きっと太陽をこっちの世界へ呼び込むための、ある種の儀式なのかもしれない。


 んっ、今日も太陽がまぶしいぜ。

♪~名もなきキャンプ地の朝未あさまだき~♪


「おはよう。レム。

 朝からいい音が録れたわ。

 今日も一日よろしくね。


 昨日の夜に作って、余ったスープを朝に飲むと、味がしみ込んでいてより一層おいしいよね。ってレムは食事しないんだったわね。失敬」

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