第2話 父のみやげ

「町を出て結構歩いてきたわね。この辺で休憩しましょう。

 何?その視線は。私の背中にある羽を見てるの?

 飛べばいいじゃん。飾りかよ!って顔。

 ハイハイ。飾りみたいなものですよ。

 まだまだ、成長期なんだからね。これからなのよ。


 ところで君、名前は?

 って、口きけないようね。私が付けてあげる。

 そうね~、、、『レム』はどぉ?

 何よ!ゴーレムから取った安易な名前だなって顔。

 君は話せない分、思っていることが表情に出やすいのよ。きおつけてよね。レム!


 それにしても長期、荷物持ち、銅貨3枚の仕事内容でよく応募したわね。私なら怖くて無理だわ。


 ちょうど休憩中だから私の仕事内容を話しておくわね。

 私の職業は癒音ゆおんハンター!

『癒音』って言うのはいやされる音って意味。まんまね。

 たとえばそうね、リラックスしたかったり、寝る時に聞いたりする音を、音源の所まで行って録音するの。危険な場所やめったに聞くことのできないレア音源はプレミアがついて高値で取引されるのよ。


 そしてこれが、その音を録音するためのアイテム『レックリ』よ。

 これは、巻貝みたいな形をしているけど、山奥の木になる魔法の実なの。

 ほら、ここの頂点の尖ったところを押すと録音が開始されて、5分くらいすると勝手に止まって、録った音がずっとこのレックリの中に刻まれるの。一度録音したら上書きできないのが特徴で、後から何度でも聞くことができるの。そして、今レムが背負っている背嚢はいのうには、大量のレックリが入っているってわけ。


 今は一つだけ録音済のレックリを持っているから、今からこれをあなたに聞かせてあげる。

 これはね、旅に出たまま行方不明になっているパパが私に残してくれた宝物で、どこで録ったか分からないけど、すっごく癒される音なのよ。

 レックリの横を強く押してあげると再生されるわ。こんなふうに、、、」


♪~父のみやげ~♪

 ん?この音は、、、ヒグラシの鳴き声に似ているぞ。それに、カラスと、、、遠くでカエルの鳴き声も。「ゴーン」って、これお寺の鐘を突いた様な音だし、、、

 おいおい、これ、日本そっくりじゃねーか。こっちの異世界にもこんな空間があるのか。


 確かに癒される。目を閉じると、子供の頃によく行ってた、じっちゃんがある田舎そのものだ。

 田植えが終わったばかりの水田に夕日が反射して、視界に入る全てをオレンジ色に染め上げている。

 鈴虫とヒグラシ、カエルの合唱に、野鳥やカラスの鳴き声がたまに差し込む。

 縁側でスイカをかじりながら、風鈴の音で夕涼み。

 そして午後5時になると、そうそう防災無線のでっかいスピーカーからこの『夕焼小焼』が流れてくる、、、


 っておい!これ完全に日本だろ!


 どういうことだ?このエルフの父親は一度日本に行って録音して帰ってきたってことになる。つまり、俺も元の世界へ帰る方法があるってことか?

 ヨシヨシ。この世界でようやく目標というか希望というか、そんなものが見えてきたぞ。

 このことをエルフにジェスチャーで説明するのは、、、無理だよな~。

♪~父のみやげ~♪


「どうだった?レム。自然の中にいたと思ったら、突然流れるこの何とも言えない低音質なメロディーがいいじゃない?

 私は、癒音ハントとは別にパパを探すこともこの旅の目的にしているの。

 パパがどこでこの音を録ったのかさっぱりわからないんだけど、きっとこれが手掛かりになるんだと思うの。


 さー!いつまでも休憩していないで出発するわよ。といっても、あなたは何も疲れていないようね。

 うん、知ってる。自分に言い聞かせているの。

 羨ましいわ、その体。私も疲れない体が欲しいわ。レムは何の悩みも無さそうでいいわね。しっかり私のサポート頼むわよ。


 あーそうそう、私の名前はユッコ。さすらい癒音ハンターのユッコ!よろしくね」

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