ゴーレムに転生した俺。癒音ハンターの歩荷となりてファンタジー世界を闊歩する
団田図
第1話 出会い
ここはどこだ?
そうだ、おれは、、、
海でライフセーバーとして溺れている人を助けに行ったら、予想以上の高波でこけた。それから海底の岩場に頭を強く打ったところまでは覚えている。
まだ意識があるってことは、生きてるのか?
いや、なんだか変な感覚だ。呼吸をしていない?嗅覚や味覚も無いようだ。触覚もない。風の音は聞こえる。目を開くことはできるか?
出来た!
ここは、、、草原?
池があるぞ。覗き込んでみよう。
ぎゃーー!!
なんだこの姿は!
ずんぐりむっくりで石のようなゴツゴツとした肌。いや、実際に俺の体は岩で構成されている。
ゴーレム?!
ってことは、、、俺、ゴーレムに転生した?!
転生なんてものを受け入れてしまっている俺自身にも怖さを感じるが、この世界がリアルすぎる。これを現実として受け入れるしかない。
100歩譲って、死んだまではいいとして、いや良く無いけど、よりによって視覚と聴覚しか持たないゴーレムに転生するなんてありかよ!
もっと、スーパースキル持ちのイケメン勇者に転生したかったぜ。
悔やんでも仕方ない。とりあえず元の世界に戻るか、この世界で生き延びていく方法を探そう。
おや?あっちの方に町のような建物の集まりがるぞ。行ってみよう。
しっかし、動きが遅くて歩きづらい体だな。俺。
町に着いた。
人間、エルフ、ドワーフ、獣人。
しかも、すれ違う人たちは俺のゴーレム姿を見て驚きもしない。
こりゃあ完全にファンタジー世界だな。それも比較的平和なやつ。
何からしたらいいんだ?
安定した生活基盤を作るためにまずは衣食住か?
服は、、、いらない。
食事は、、、いらない。
住むところは、、、いらない。
俺、ゴーレムだった!!!
生殖器が無いから隠すところもないし、口も無いから食べ物もいらない。寝るところも、体が冷えたとて問題ないから、空き地で十分だ。
はたしてこの体は良いのか悪いのか、生きる楽しみや目的を考えさせられるぜ。
自分が分からなくなったときは、、、旅に出よう。
この世界が何なのか、自分は誰なのか。
しかし一人だと不安だな。こんな時は、『冒険者ギルド』って所へ行けばいいんだろ?
むむ!この世界独自の文字で書かれた看板だから、まったく読めねーや!
周りの立ち話をしている人たちの言葉は分かるが、俺はしゃべることができないから、ジェスチャーでしかコミュニケーションを取ることしかできない。
『冒険者ギルドはどこですか?』ってジェスチャーか、、、一日使っても表現できないだろうな。
そもそもジェスチャーってお互いに共通した認識事項があってこそ成り立つものだから、ここのファンタジー世界では難易度が高いだろうな。
お?!あそこに強そうな冒険者らしき奴らが出入りしている建物があるぞ!
(カランコロンカラン)
よしよし。人がたくさんいて受付があって、壁には手書きのメモがたくさん張ってあるぞ。
おれが行きつけだったハ〇ーワークにそっくりだ。
口がきけない俺と一緒に旅をしてくれる奇特なヤツはそうそういないだろうが、文字を読むことができないからメモから想像して旅仲間を探そうか。
おそらく、ここに張り出されているのは仕事の依頼ばかりだろう。そんな中でも、この一番隅にある古いメモはきっと長期、過酷、低報酬で人気がないんだろうな。頑丈で力持ちだけが取り柄のこの体にピッタリじゃあないか。
とりあえず話だけ聞いて、イエスかノーのジェスチャーで返事をすればいいだろう。
受付のお姉さんにメモの依頼主との仲介をジェスチャーでお願いをした。
しばらくすると、一人のエルフが目の前に現れた。
俺の身長が約3メートルで、その子はちょうど半分くらいだろうか。
彼女の背中にある羽は、飾りかのように小さく薄い。
つんと尖り伸びた耳が、銀白く長い髪から飛び出している。
大きくて蒼く透き通った瞳を輝やかせながら、査定をするかのようにこちらを見つめている。
「う~ん、、、合格!荷物はまとめてあるから早速出発よ!」
ちょ、ちょ、ちょ、説明プリーズ!
そんな俺のジェスチャーを見てはくれず、彼女は後をついて来いと言わんばかりに背中を向けてそそくさと歩き出した。
先行く彼女を無理に掴んで止めようとすれば、この巨体だ、けがを負わせかねない。様子がおかしければ引き返せばいいことだ。
俺は黙って後を追うこととした。
町はずれにある小さな小屋へ入ると、大量の荷物が入った規格外な大きさの
「じゃあこれ、よろしくね」
おそらくこれを担いで後をついて来いということだろう。
俺は腰をかがめて、その何キロあるか分からない大きな背嚢を背負い、準備を整えた。
ちなみに重さは一切感じない。今度ヒマなときにでも自分の限界パワーを知るために、でかい岩でも持ち上げてみようと思った。
「いざ行かん、まだ聴かぬ未知なる
にぎりこぶしを天に突き上げながら脇を見せてくるエルフ。
俺にも同じポーズをしろと言わんばかりにアゴをクイクイしている。
仕方なしに腕を上げたが、癒音?探す?なんのこっちゃら。
よくわからないが旅に出ることだけは分かった。
このエルフの目的や動機、名前すらもわからなかったが、それと同じくらいにこのファンタジー世界における自分自身の事がわからない俺は、とりあえず後をついて行くこととした。
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