12
「エレン!」
王宮に到着すると、先に着いていたエレンの馬車へと駆け寄った。
「サラ」
乱れた様子のないエレンが馬車の側に立っていた。その隣にはルナもいる。
「何があったの?」
「――魔法による攻撃を受けたわ」
「攻撃?!」
「防御魔法がかかっているし、派手なだけで大したことはなかったけど」
そう言ってエレンはルナの首筋を撫でた。
「このルナが飛び出してきてね、全て跳ね返してくれたわ」
「ルナ」
手を出し出すと、ルナは顔を擦り寄せてきた。
「――エレンを守ってくれてありがとう」
「御者は翼が生えた馬と言っていたが」
「ええ。ルナが輝いて、光が翼みたいに広がったのよ」
フィンの言葉にエレンがそう答えた。
「綺麗でしたね」
一緒に馬車に乗っていたブレイクも言った。
「大きな翼が広がるとともに、街中に飾られていた花が舞い乱れて……観衆も大興奮でした」
「……随分と派手にやったのね?」
ルナを撫でると尻尾を大きく揺らした。
「それで犯人は」
フィンが傍の護衛に尋ねた。
「いえ、まだ……」
「犯人はこいつらだよ」
ふいに子供の声が聞こえると、ドサッと重たげな音が聞こえた。
振り向くと何重にも紐で縛り付けられた五人の男が横たわっていた。
そして男たちの側には一人の少年が立っていた。
十歳は越しているだろう。白い髪と肌、薄い茶色い瞳。
大人びた雰囲気のその顔は……どこか、見覚えがあった。
「こいつらは儀式後の女王を襲うことで、女王が女神に祝福されていない、つまり王にふさわしくないと思わせようとしたんだ」
少年は転がる男の一人を爪先で突きながら言った。
「でも結果は神獣が女王を助けることで、女王が女神に守られていると民衆に知らしめた――つまり逆効果だったけどね」
「女王を陥れようとしたのか?」
周囲が騒ついた。
「……反女王派か」
小さく呟いて、フィンは少年に向いた。
「それで、お前は何者だ」
「私はオリバー・グリフィス」
少年はフィンを見据えて言った。
「王宮魔術師テレンス・アシュビーの紹介でここに来た」
「師匠の……じゃああなたが例の魔術師?」
エレンが言った。
(ああ、夜会の時に言っていた……この国一番の魔力を持つ)
というか……もしかして、この子。
ある可能性に思い当たった私をオリバーと名乗った少年が見て、にっと――よく見知った笑顔を浮かべた。
「サラ」
次の瞬間、オリバーの顔が目の前にあった。
「どうしてお前はそんなに成長してるんだ? 一歳しか離れていないはずなのに」
ああ、やっぱり。
「――そのことで聞きたいことがあるのだけど」
「サラ? その者を知っているのか」
フィンが訝しげに私たちを見た。
「あ、ええ……でもここでは」
私が巫女だったと知らない者の前では言えないことだから。
私たちは一旦部屋に戻り、着替えると巫女の部屋へ集まった。
「随分と殺風景になったな」
室内を見回してオリバーが言った。
「誰も使っていないもの」
「それでも花くらい飾っておくべきだろう」
パチンとオリバーが指を鳴らすと、部屋の中に大量の花束が現れた。
「ちょっと、こんなに沢山出さなくても」
生花はお手入れや片付けが大変なのに。
「何もないのだからこれくらい飾らないとな」
「多すぎなの! 本当にそういう所は変わらないのね、お父様は」
「お父様?!」
エレンとブレイクが同時に叫んだ。
「あ、ええと……」
「この身体になる前の名はアダム・エドワーズだ」
どう説明しようか迷っているとオリバーが言った。
「巫女サラの父親だ」
「アダム・エドワーズって……伝説の魔術師?!」
エレンが目を見開いた。
「え、サラの父親だったの?!」
「有名なの?」
「この国歴代一の魔術師で、百年以上前に亡くなったって聞いたわ」
ブレイクが尋ねるとエレンがそう答えた。
「死んではいない。山に籠り不老不死の研究をしていた」
「不老長寿?」
「だがどうしても肉体の劣化は防げなかった。だから魂と魔力を別の肉体に移すことにしたんだが」
オリバーはじっと私を見た。
「お前は魔力が全くないな。その代わりそんなに成長してしまったのか?」
「――私が転生したのはお父様の仕業なの?」
その言い方だと……女神が予想したように。
「ああ、そうだ」
「自分が転生する前に、私で試してみようと?」
「ああ」
私を実験台にしたということか。父らしいけれど……。
「どうして別の世界に転生してしまったの?」
「あの瞬間、別の力が働いたんだ。そのせいで色々狂った」
オリバーはため息をついた。
それはきっと、女神の力だろう。
女神も私が死ぬ瞬間、自分の元へ連れて行こうとしたのだから。
「お父様。私は転生した世界で二十三年過ごしてきたの。魔力がないのは、おそらく向こうの世界には魔力も魔法も存在しないからかと」
「二十三年? ――時間の流れが違うのか? それに魔力のない世界とは……」
顎に手をあてブツブツと呟きながら思考するその姿は昔と同じだ。
「サラの父親……」
そんなオリバーを見つめながらフィンが口を開いた。
「つまり、私の義父になるのか?」
ブッ、と声が聞こえてきた方を見ると、ブレイクが口を手で塞いでいた。
「……すみません、義兄上がその少年をお義父さんって呼ぶの想像して……くくっ」
「ちょっと笑いすぎよ」
嗜めるエレンもその口が緩んでいる。
「――義父?」
オリバーはフィンを見上げた。
「サラの婚約者のアーチボルド・フィン・カストルム・ハンゲイトと申します」
自分を見て名乗ったフィンから視線を私へ移すと、何か言いたげな顔になった。
「婚約って、それは――」
ドンドン、と強く扉を叩く音が聞こえた。
扉を開くとブルーノが立っていた。
「失礼します。陛下を襲撃した者たちの尋問の準備ができましたが……」
「ええ、行くわ」
頷くとエレンはフィンを見た。
「お兄様も来てくれる?」
「私もか」
「死神もいた方が効果があるでしょう。サラは……」
「私はお父様と少し話がしたいの」
「分かったわ、それじゃあ後でね」
「サラ、この部屋で待っていてくれ」
フィンたちが出ていって、私はオリバーと二人きりになった。
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