プロローグ4 元同業の妻

 都内の外れにある、自宅に着く。本業と副業、両方がかなりの収入なので、大きめの家を建てた。家に着くなり、鍵を開け玄関からスリッパのまま、飛び出してきた妻が出迎えた。


「お帰りなさい。無事帰っていただき嬉しいです。」


「ただいま。大変なヤマだったけど、なんとか無事に帰ってきたよ。」


妻は、元同業者。つまり、元暗殺者だ。元々は、僕を殺すためにある組織から仕向けられた刺客だったが暗殺に失敗し、依頼元から始末されそうなところを、その組織ごと僕が皆殺しにし、そのまま妻として迎え入れた。組織には裏があるみたいだったが、そこは掴むことはできなかった。見た目がタイプだったこともあったし、短い期間だが共に過ごして少なからず彼女に恋心が芽生えていたのかもしれない。その後、彼女は暗殺業を引退して僕のサポートそしてくれている。たまに、以前ターゲットの親を殺すためにとった教員免許を使って、近所の学校で英語の先生をしているらしい。ちなみに、料理は一切できない。包丁さばきはさすが元暗殺者というものがあるが、力加減ができないみたいで、こぼしたり、塩をぶちまけたりしてしまう。味付けもうまいとは言えない。


女性の暗殺者は、基本的に相手の懐に忍び込み、ターゲットと近い状態で殺しを行う。そのため、基本的に容姿がいい。時代によって、求められる容姿の形が変わるが、今の時代は可愛い系が求められているらしい。ロリ顔の方が、需要があるみたいだ。幼さからか、油断して、簡単に懐に入りやすいとのこと。それに、ロリ顔の方が今の時代モテるみたいだ。各局のアナウンサーとか見てると、時代が求めている顔がわかるかもしれない。それに合わせて、基本ショートヘアーで、長髪好みのターゲットに近づく時はエクステをつけるらしい。機敏な動きには長い髪は邪魔だから。


うちの妻は、どちらかというと、キレイ系。先ほども言ったように僕好みで、僕を至近距離で殺すなら最適解な容姿だ。妻曰く、暗殺を仕事にする以上、女は綺麗でなければいけない。整形なんて当たり前、とのこと。妻が整形をどの程度しているのかはわからないが、ぱっちり二重の手術はしたらしい。追求されるのは少し嫌らしいが、整形なんて実際のところ、どうでもいい。引退後は、髪を伸ばして綺麗な黒い髪を嬉しそうに整えている。


 家の中に入ると、いつも以上に丁寧にやさしくスーツケースを扱う僕に違和感を覚えたのか、


「そのスーツケース、なに入っていますか?違和感があるのですが。」


「流石に気づくか・・・」


僕は、優しくスーツケースを横に倒して、ロックを解除し、スーツケースを開けた。数時間この狭い中に監禁のような形でいた彼女は、お腹の中の胎児のように丸まって寝ていた。この条件で寝れることに驚いたが、それ以上に彼女を見た妻の方が驚いていた。


「今回のターゲットの1人だ。連れてきた。」


妻は驚きと戸惑いの表情で、


「よろしいのですか?こんなことして。もし、見つかったりでもしたら・・・」


「総監は気づいてるみたいだった。今度説明するから大丈夫だろう。」


僕の立場とかを考えると、結構な無理難題は受け入れてもらえると思う。それだけ僕の立場はいい。前にも、無理難題を受け入れてもらった経験もあるし。


「それに、子供が欲しくても授かることのできない僕たちにとって、彼女は、大切な家族になってくれると思うんだ。」


気持ち悪い話だが、僕ら、暗殺をするために育てられた人間は子供を作ることができない。男は幼い頃に、去勢手術を強制的に受けさせられ、女は特殊な薬で、卵巣の機能を著しく低下させ、受精したとしてもすぐに流産するようにされる。男の場合は、弱点を外に出していることが非合理的だということ。女の場合は、ターゲットとの子供を作ると困るかららしい。僕ら夫婦も例外ではない。快感を得ることはできるが、その結果の本質を得ることを僕らは勝手に、完全に奪われている。


「うぅう・・・」


彼女が目を覚ました。


「この子のこと受け入れてくれるか?」


「もちろんです。ずっと欲しくて、諦めていたものですから。」


起きたばかりの彼女は、目を擦りながら状況の把握に頭を使っていた。


「今日からこの家の子になるんだ。父親の剣城玲だ。よろしくな。」


まだ戸惑っている頭を優しく撫でた。


「よろしくね。母親の剣城琴乃です。名前は・・・」


「ああ、そうだ。まずは最初にそれをしなくてはいけないな。」


彼女の自己紹介の代わりに、琴乃に資料を渡す。彼女に名前がないこと。彼女が今回依頼を受けた国の第4王女だったこと。彼女の故郷はもう影も形も、記録も残っていないということ。


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