第3話 緑

ぼくの朝は早い

顔を洗って、寝癖を治して、

防水のコンシーラーを首筋に何点か付ける


寝室に散らばるティッシュやゴミをまとめる

「……くさい」

朝ごはんを皿に盛り、残りを少しつまむ

「いってきます」

裸で眠るそれに言い放って家を出る。


「おはよ!!!!」


かわいいかわいい転校生は

殺して欲しいだなんて人に頼むとは

微塵も思えないような笑顔で挨拶をする。


「…おはよう」

ぼくは俯きながら教室に入る


「転校生、乳デカくね?」

「いやあれD…Eはあるよなマジ…」

「ちょっとさいて〜」


彼女に聞こえるか聞こえないかの声量で

下世話な話が続けられている。

あのシャツの下に広がっているのが

目も当てられないような痣でも、アイツらは

勃起するんだろうか、 羨み妬むんだろうか


眉間にシワがよった頃、チャイムが鳴った。


「ほ・う・か・ご・ね・!」

彼女は口をパクパクさせている

手を少し振りぼくは眠りについた。


西日が額に辺り、少し暑さえあった。

気づくともう部活動への準備に勤しむ人で

溢れており、 時計は16時を回っていた。

「すこし寝すぎたな…」

ぼくは小走りでウサギ小屋に向かった。


「きた!!!こやんのかと思ったよ!!」

少し怒り気味の転校生はベンチに座りながら

足をパタパタさせていた。


「ほんで、お願いきいてくれるんかなって」

スっと真顔に戻った彼女の声には

普段の柔らかさがあまりなかった。


「まあその、無理にとは言わないけどさ

理由も知らずハイ殺しますとか言えないし

嫌じゃなければ、なんでかなって」


普段人と話さないので話の濁し方も

よく知らないぼくの声に彼女はしっかりと

耳を傾けてくれていた。


「そうね、そうやんね、今日時間ある?」


母親が帰ってこない曜日、水曜日、今日だ。

ぼくはそっと頷いた。


「そうね、何から話そうかね、」


彼女は足元の芝生をグリグリと弄っていた

唇も少し震えていたような気がする。


上履きに少し芝生の緑が染み出していた。

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