fileⅠ final 黒薔薇の弟子Ⅱ

一方その頃、交差点でレッドフードと戦闘中のヴィヴィアス。

いくつもの赤い光の槍が暴走するレッドフードの体を地面に縫い付ける。

『A゛aaaaaa!!!!』

だが、もはやただ本能のままに暴れ回る獣と化したレッドフードはその咆哮だけで、その身を捕らえていた光の槍を粉々に砕く。

「ああもう!そんなにしつこいとか殿方に嫌われるわよ!!」

ヤケクソ気味にそう叫ぶとヴィヴィアスは周囲に数十、数百もの数の小さい光の弾を浮かべると、レッドフードに向けて勢いよく飛ばす。

そして光の弾がぶつかったことにより撒き上がった煙幕の中から、勢いよく伸びた巨大な腕がヴィヴィアスの体を掴む。

『A゛aaaaaa!!!!ツ可ッ……まe汰ァ!!』

「くぅ、あぁ゛っ……」

潰シ手∀geつぶしてあげるるるるるる!!!!』

「カハッ…ああもう……内蔵が潰れるのは何度経験しても慣れないわね……!!」

吐血しながら、まるでなんでもないかのように、余裕綽々と呟く。

「……………さすがに、眼を開かないと厳しいか。」

『?!!?』

ヴィヴィアスがそう呟くと同時に、ヴィヴィアスを掴んでいたレッドフードの腕が粉々に砕かれる。

「───さあ、御覧遊ばせ。これなるは色薔薇の七騎士セブンローズの勲章である薔薇の魔眼。緋色の薔薇の名の元で愉しい饗宴を開きましょう…?」

眼帯を取ったヴィヴィアスが妖しく微笑むと、その瞳に刻まれた深紅の薔薇の紋様が紅く輝いていた。


ヴィヴィアスと別れてから数分、俺は今、病室で千葉ほなみ……いや、今回の事件の黒幕であるダグズディスティレードに対峙していた。

「死んでも嫌だね!!」

「そうか……残念だよ。なら、ちからずくで連れていくしかないな!!」

そう言ってニヤリと笑ったダグズが指をパチンと鳴らすと、黒い紐のような何かが床に仕掛けられた魔法陣から出てくると俺の体を勢いよく縛る。

「……ぐっ!!」

「まったく、黒幕である僕のところに単騎で突撃するとか、ちょっと警戒心が無さすぎるだろこのバカ。」

「……仕方ないだろ?ヴィヴィアスはレッドフードと戦ってるし、それに病院には怪我人だって大勢いる。ここでお前に暴れられたら、大変なことになるのは、俺にも分かってる……!!」

「それで自分が止めなきゃってか…?まったく………お綺麗な正義感ですこと。」

「え?ありがとう!!」

「褒めてねーよ!!………とにかく、さっさと終わらせるから、接続アクセス

「!?」

ダグズは俺の目の前に立ち、何かを呟くと俺の中が何かを繋がる嫌な感覚がしたと思うやいなや、ダグズが俺の目の前に表れた魔法陣に手を突っ込むと、体の中を弄り回されるような気持ちの悪い感覚に陥る。

「さあ、お邪魔するよ。」

「グァッ!?……な、なんだコレ!?」

「ちーっと、君の中からアレを取り出させて貰うよ。」

「さっきからアレってなんだよ!!?」

「とぼけても無駄だから、いるんだろ?君の中に、『虚空の悪魔』が。」

「……虚空の…悪魔?」

「そっか。さすがに名前までは知らないよね。君の体は虚空の悪魔という悪魔が取り憑いている。しかも魔術で造られた怪異なんかじゃない純度100%の悪魔だ!!」

「そんなのこと信じられるワケ……」

「じゃあ体のソレはなんなワケ?」

「!?」

そう言いながらダグズは俺の服を捲ると俺の体が顕になる。

俺の体にはタトゥーのを彷彿とさせるような痣が腹を中心にまるで呪いのように浮かび上がっていた。

「まるでタトゥーのようなその痣。これは悪魔が封印された人間にのみ現れる刻印だ。……あの女にも聞かれたんじゃない?その痣がいつからあるのか。」

『ねぇ、貴方。

言われてみれば聞かれていた。

だがあの時は、自分も聞かれて気分のいいものではなかったから濁してしまっていたし、ヴィヴィアスもその後に対して追及しなかったから話はそれで終わっていたと思っていたのだ。

「心当たりがあるって顔だね。」

「っ………だったらなんなんだ!?」

「別に?ただの好奇心だよ。それじゃあ無駄話はこれくらいにして、そろそろ虚空の悪魔。戴こうかな?」

「………ぐっ!?……あぁ…くっ…」

ダグズは再び魔法陣に手を伸ばす。

まるで内臓がかき混ぜられるような激痛が腹に走る。

正直、痛いし気持ち悪い。今すぐ吐き出してしまいたいほどだ。

「ほらほら、ここをこうすれば……ほら届いた!……は?」

ダグズが怪訝な顔をすると同時に俺の中から魔法陣を介して影のような何かが出てくるのを感じる。

俺からは出てきた何かはダグズの腕を掴むとダグズの腕はべきべきと音を立ててあらぬ方向に曲がる。

「………くそっ。やっぱりやぶ蛇か!」

ダグズは勢いよく腕を振り抜いた後、影が俺の周囲の魔法陣に触れると今まで俺の体を縛っていた魔術と俺の中に仕掛けられていた魔術が音を立てて砕けていった。

「…………だけどさすがに予想以上だ。多重詠唱の捕縛術式まで壊されるなんて。」

「……なんなんだ、これ。」

「だいたい分かるでしょ、今のが虚空の悪魔。僕の目的だった悪魔だよ。もっとも、彼はここから離れようとは思っていないらしいけどね。」

ダグズがため息を吐くと同時に勢いよく病院の壁は爆破され、中から見覚えのある紅色の髪の少女が現れる。

「そうなの。じゃあ、貴方は大人しく本国に帰ってくれるかしら?」

「ヴィヴィアス!?」

「………緋薔薇の魔女。レッドフードはどうしたんだい?たしかあれには獣化の術式で力の底上げをしてた筈だけど?」

「ああ、さすがにもう退場してもらったわ。とはいっても貴方自身も、アレは時間稼ぎ程度の用途だったんでしょうけど。」

「うん、だってアレと貴女じゃ、力の差は歴然だもん。」

「でしょうね。ともかく話を戻しましょうか。私としても黒薔薇あのクソ野郎との荒事は避けたいの。だからお目当てのモノが無いのなら、さっさとご退場願えませんこと?」

「そうだね。悪魔も手に入れられないんじゃあこんな所には未練も何もないし。さっさとこんな所からは退散するよ。」

立ち去ろうとするダグズの事がどうしても気になって、俺は思わず引き止める。

「……その前に、一ついいか?」

「なんだい?」

「お前は、なんで俺達を殺さなかったんだ?」

「………」

「さっきお前は俺達の事を羽虫程度にしか思ったことが無いと言った。じゃあ、なんで俺から悪魔を奪おうとした時、愛知を襲うんじゃなく、お前自身が倒れたフリをしたんだよ。悪魔を奪おうとしたなら、さっさと俺を殺して奪えば良かったのに、それをしなかった。どうしてなんだよ…………」

「………さあね。そんなの、僕が知るわけないだろ。」

切ない顔でそう呟くと同時に、ダグズ、いいや、千葉は光の粒子になって、この街から跡形もなく姿を消した。

「瞬間移動の術式ね。上手く逃げられたみたいだけど、立ち去って、いきなり悪魔を狙ってきたりはしないでしょうし、これにて一件落着、事件解決ね。さ、帰ってパーティにしましょう?」

ヴィヴィアスさんと一緒に病室から出ていこうとする最中、俺はふと、足を止める。

「…………じゃあな、千葉。」

俺は1人寂しく、呟いて、この場を立ち去った。

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薔薇の貴族と悪魔憑き 綾里仙里 @waterlily101

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